第11話 出発は3人で

翌朝、アドリアノープルに向けての移動は3人となった。ボッシュがどうしても街まで警備をしたいと言い出して聞かなかったからだ。


結局はケリーが折れて、ハジメの剣の指南の件を報告すると言う形で同行する事になった。これにより馬車の御者をボッシュがやってくれて、キャビン(屋形)には対面でケリーとハジメが座っている。


昨日泊まったヤチ村を出て休憩を挟みながら順調に進んでいく。昼を過ぎたあたりから小さい村が増えていき、道幅も広くなってきた。すれ違う幌馬車?も増えてきたので街に近づいてきてるのだろう。


日没ギリギリに目指していたアドリアノープルの北門に辿り着いた。

街に入るには入り口でチェックがあるが、勿論ワグナー家の人間は簡単はチェックで入る事が出来る。


衛兵も慣れた様子で挨拶をする。


『おかえりなさいませ。子爵様がいらっしゃらないようですが?いかがされましたか?そしてそちらの方は?』


『うむ、その件で警備隊長を呼んできて欲しい。こちらの方は我が家の客人でな。ナカムラ殿だ。身元はワグナー家が保証するから通すが大丈夫だな?』


『はっ!畏まりました。ケリー様が仰るなら無論問題ありません。ただ今隊長を呼んで参りますので門の中に入って頂き、馬車の中でお待ち下さい。』


数分後、衛兵とは違う服装の大きな身体の男がきた。


「お待たせして申し訳ございませんでした。おかえりなさいませ、ケリー様。して話とは?」


『うむ、それなんだが…。』


「なるほど。ハイマン様の事は残念でしたが、何よりケリー様がご無事で何よりでした。ナカムラ様もケリー様を助けて頂きありがとうございます。」


『いえ、成り行きではありますが助太刀できて良かったですよ。』ハジメは軽く答える。


(この隊長は子爵よりもケリーさんの心配をしている?そこまで嫌われてるのか?ここまで大きな街の警備隊長ならば子爵家にゆかりがありそうだが??)


思案するな顔をしていたのが分かったのかケリーが笑いながら答える。

『我々ワグナー家は南部都市の警備全般が主な任務なのだよ。もちろん別の小さな町だが所領もある。』


『なるほど、文官よりも武官って事ですね。』


『まぁ、そうゆう事だ。』

『隊長、こちらのナカムラ殿は今後我が家で仕事をして頂く。私もナカムラ殿に教えて頂く事になるので、対応には失礼が無いように頼むぞ。部下にも話をしておいてくれ。』


「畏まりました。主に街の中と北門の警備隊を指揮している長のコギーです。ナカムラ様宜しくお願いします。」

『こちらこそ宜しくお願いします。』

コギーとハジメは握手をした。


『遅くなったがハイマン殿の代官屋敷に向かうとするか。ボッシュはすまないが先に屋敷に向かっててくれないか?』


『分かりました。街の中ならばさすがに大丈夫でしょうから。ナカムラ殿お願いしますぞ。』


『ええ、分かりました。』

こうして、ボッシュはワグナー家へケリーとハジメは代官屋敷へ向かった。


代官屋敷は街の奥の少し小高くなっている所に建てられていた。代官屋敷は侯爵が逗留する際にも使うため塀も高くなっており立派な建物になっている。テレビやネットで見る洋館と小さなお城の間の様な作りだ。


ここにも勿論門番はいる。

『ワグナー様、おかえりなさいませ。今開門しますが、そちらの方は?』門番は何も知らないのでキャビンの中には子爵がいると思っている。もっとも子爵は元々門番に顔見せるような人では無かったのだろう。キャビンの中の確認も無かった。


『こちらの方はワグナー家の人間だ。君は気にせずに通してくれ。そしてホール横の執務室の横待合室にバドラーを呼んでもらいたい。』


『畏まりました。では執務室の横の待合室でお待ち下さい。』



数分後、白髪の子爵のバドラー(家令)が部屋に入ってくる。


「お待たせしましたな。この様な時間に私をお呼びになるのは何かありましたかな?我が主より例の村から先に戻られたそうで。してそちらの方は?」


『うむ。まずは落ち着いて聞いてほしい。奥方にもお伝えしなければならない事だが、なにぶん私が奥方に嫌われている節があるのでバドラーからお伝え願いたい…。』


話を聞きバドラーは驚きと無念そうな顔していた

「そうでしたか…。それでは尚更奥様には私がお伝えした方が宜しいですな。奥様は荒事には無縁の方、良くも悪くも貴族然とした方です。ケリー様に心無い言葉を使う恐れがある。』


『かたじけない。そして何よりも一番の問題なのだが、例の村の村長とハイマン殿は一体何をしていたのだ?護衛には行くが、必ず席を外してくれと言われ2人だけで話している。貴方ならばご存知なのでは?例えそれが良くない話しであってもだ。』


「我が主は…。」


『話の途中ですみません、一つ宜しいでしょうか?』


『どうしたハジメ殿?』


『はい。恐らく、子爵は何かしらの不正が行われていたのかと考えます。例えば裏金とか。その不正をその村の村長と共謀していた。コレも推測ですが、万が一代官屋敷内に証拠があると侯爵が逗留された際に露見の恐れがある。そこで程よく離れた村に証拠や現物を隠していた。小さな村なので盗賊の被害も考えられなくないですが。』

『きちんと税金を管理さえして定量を送金していれば侯爵も文句は無いなはず。代官の仕事として子爵が村の視察に行くのは寧ろ好ましい事。多少華美な服装でしたが家族とはそうゆうモノだ突っぱねてしまえる。』


「仰る通りです。何度もおやめ下さいとお伝えはしましたが、先代も晩年に出来たお子のため甘やかして育ってしまいました。民の事を考えずに欲に目がくらんでしまって。お恥ずかしい限りです。」


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