第8話 隣に誰かがいるだけで世界は美しさを増す
テントを撤収する前に居間でケリーさんの肩と脇腹の傷の具合をチェックする。
昨夜ケリーさんに聞いた魔法の使い方だが、基本は詠唱する事でその効果を増やす事が出来るらしい。詠唱が魔法の構成と効果の発動になっているのだがケリーもそこまで魔法に関しては詳しくなかった。
そこで回復魔法を司る豊穣と癒しの女神の名前イシスが含まれる詠唱の文言を教えてもらいケリーに試してみた。
『豊穣と癒しの女神イシスよ。傷を負った彼の者に癒しを与えたまえ!ヒール!』
ハジメの右手が昨日より一層白く輝き同時に温かさがケリーの周りを包み込んだ。
光が収まると肩にあった傷口がキレイに消えていた。
肩をぐるぐると回して具合を確認しながら笑顔でハジメに話しかける。
『肩が全く痛く無い。それに傷痕がキレイに消えているし、脇腹の肋骨も治っている様だ。ナカムラ殿は完全に回復魔法のコツを掴んだようだな。回復魔法の使い手はとても少ないから貴重なのだよ。』
(回復魔法の使い手が少ないのか。)
『それならこれを仕事に出来るかも知れないな。もしかしたら病院なんかよりも治療院の様な真似事が出来たら生活していけるだろうし。』
『たしかにな。あとは領主や治療ギルドが発行する営業証さえ取れればすぐにでも治療師としてやっていけるぞ。』とケリーも答える。
身支度を整えてテントも撤収する。
馬車の馬も一晩で落ち着きが戻ったようだ、
元々代官が使う馬車だけあって優秀な馬のみたいだ。話を聞くと飼育はワグナー家で行ってるようだった。
顔にそっと手を添えて撫でてやると気持ち良さそうに擦り寄ってくる。
『ほぉ、この馬がすぐ懐くとは珍しい。
馬は賢い動物だ。悪意や害意がある人には懐かない。ハイマン殿には一切懐かなかったしな。』
『昔から動物には好かれやすくて。後半は聞かなかった事しますよ、ハハハ。』
馬車に乗り街へ向かって移動する。
ハジメは道中気になっていた事をケリーに聞いてみた。
『いくら平和な領内とはいえ代官が護衛1人で見回りとは少し物騒な気がしますが、何か特別な用事でしたか?』
するとケリーは苦笑いで『護衛はあと2人いたのだよ。さすがに私1人では無かったのだが、昨日の襲撃でやられて。腕はともかく手際が良かった事を考えると事前に計画されていたのかもしれん。』
どうやら代官が訪問したのはとある村の村長宅。まぁ、表に出来ない裏金的なものの回収か何かだったのだろう。正規の見回りでは無かったようだ。その為人数も最小限だった。
そうなると急な出来事のはずなのに、計画的だったとすると…。これは村長側が手配した襲撃者だったのだろうか?
少し考えた所でハジメは首を振る。
(今の俺には関係のない事だ。あまり深く考えるのはやめておこう。)
『ケリーさんも、任務とはいえ大変だったんですね。』
ハジメは当たり障りの無い返しでこの話を終わらせる事にした。
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