第7話 街に行く前に
こうしてケリーさんとしばらくの間行動を共にする事になった。
まずは無惨に刺殺されていたハイマンさん遺体を弔う事にした。 ケリーさんは何かコチラの世界の宗教のスタイルなのか、何かの呪文の様なことを呟きながらハイマンの遺体に水を掛けていた。
本来は聖水で清めて火葬するのが正しいのだが生憎聖水は持ち合わせていなくてな。
キレイな川の水で代用させてもらった。
身につけていた恐らく身分や本人が分かるものを外して、少し穴を掘り火葬した。
ケリーさんは簡単な炎の魔法が使えるようだった。
(後で聞いたら炎の魔法では無く生活魔法の種火の一つで、教えてもらったら簡単にハジメも出来た。)
火葬も済ませて、ハイマンさんの馬車を連れて移動しようとしたが馬が怯えてしまっていたし時間も遅くなったので、今日はこの川沿いのひらけた所で一泊する事になった。
また例によってテントを設営して中に入ってもらい
そしてなぜ今回のような事件になったのかを話してもらった。
まずはハイマンさんはこの辺りの領主の代官をしている人だった。
代官とは領主の代わりに地方の自治を行う、現代の行政官のような存在だ。
ただしこの世界では実質的に土地の有力者であり支配的な立場にある。
この辺りは侯爵領であり当然トップは侯爵になる。
侯爵は貴族の中でも大きな力がある。
序列もデュークである公爵家に次ぐマーキスにあたる。
王族は抜いて、実質2番目 (日本の明治時代辺りに当てはめると旧徳川御三家くらい当たる)
ハイマンは侯爵家に使える代々の子爵家であり代官を任せられていた。その代官の補佐役として仕えていたのがケリーさんのワグナー男爵家だ。
この世界は貴族制度があり純然たる格差社会だ。つまり家名がある=貴族となり、ナカムラと言う聞き馴染みがない家名を不思議を思われたのはここにあった。
ハイマンさんは典型的な貴族体質で平民を見下して代官の立場を悪用して、私腹を肥やしていた。
それを部下であるワグナー家の当主、ケリーさんのお父さんが諌めていたが言うことを聞かずに遂に不満が爆発した領民の一部が義賊として立ち上がってしまったのである。
しかし一部が暴徒化してしまい今回の地方視察の際に凶行に至ってしまったようだ。
『まぁ簡単に話すとこう言う事になる。詳しくは言えない事も多いが。しかし話は変わるがこのテントはすごいな。いや、ここまですごいとテントとは呼ばぬなコレも異世界のアイテムなのか?』
『いやいや、コレは違いますよ。外側は確かに私の私物ですが、中身は全くの別モノで。どうやら転移する際に特別にしてもらったようです。』
『確かに、コレを買うとなると白金貨が何枚必要なのか検討もつかない。そもそもこれは失われて久しい空間魔法の応用だろうし。もし王家に献上すれば一生困らないくらいの金と下手をしたら騎士爵ならば簡単に貰えてしまうな。』
爵位がアレばたしかに困らないか。それでも特別なモノだろうし、ギリギリまでは手元に取っておこう。
『今の所は誰かに売ったりは考えてないですよ。』
『あ、すまん。他意はないのだ。そのくらい珍しく素晴らしいモノだと言う事だ。これならば遠征先でも安心して休む事が出来る。』
ハジメもさすがにそこまで褒めてもらって良い気分にはなる。
『とりあえず今夜は奥の部屋のベッドでゆっくり休んで下さい。私はこっちの居間で寝ますので、部屋は内側から鍵が掛けられるので不安があればかけてください。』
そう言うとケリーは慌てて
『それは出来ない。命の恩人のベッドを借りて当人は居間で寝かすなど出来ないぞ。私が今の隅で寝るので安心してベッドで休んでくれ。』
結局どっちがベッドで寝るか問題になり、ケガをしてるのでと理由をつけてケリーさんに今夜は寝てもらう事にした。
その夜、やはり人を殺したフラッシュバックが襲い夜中に起きてしまった。頬には涙の跡があり泣いていたのだろう。
部屋からケリーさんが出て来て何も言わずに抱きしめてくれた。そして、目が覚めたら同じベッドで寝ていた。
『おはよう』と照れくさそうにケリーさんに言われ、慌てて飛び起きて事情を確認したが考えていた様な事は無く「清く健全な夜」だったようだ。
聞こえないくらいの小さな声でケリーさんは『まぁ、そうなってもまんざらではなかったのだがな』とボソっと言っていたがハジメには聞こえていなかった。
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