第4話  オジさん歩くよ

設営したテントの中に入ってその広さに驚いた。

持っていたテントはせいぜい中の広さは2m×2m四方で高さは140センチのはず、それがどうだろう。


入ってなぜか扉があり、普通のアパートの玄関のようだ。鍵は無いがノブに触れるとガチャっと音がなり鍵が開いた音がした。


扉の先には見覚えのある間取り。家具こそはないが、それは住んでいたアパートの部屋と同じだった。主要な沿線から少し離れたアパートは入居時にたまたまタイミング良くリフォームされて築年数の割にキレイで家賃の割に広く気に入っていたのだ。

10畳弱の居間を抜けて奥の部屋に進む。

4畳ほどの小さな部屋にはベッドのみがあった。

どうやらコレも神様?のプレゼントという事か。とりあえずしばらくは野宿の心配もなく寝慣れたベッドがあり安心だ。


役に立つかは分からないが念の為、内鍵をして今夜は眠る事にした。


翌朝


こっちの世界にきたという疲れ(不安からくる気疲れだろう)も有ったのかぐっすり眠れた。

幸いに襲撃に遭う事もなかった。


テント(もはや、テントと呼ばないが)から出て周りを見渡してみる。

拓けた平原に遠くにはやや幅広な川も見えた。異世界とはいえ、川沿いに歩けばおそらく町があるのだろう。


テントに一度戻り着替えをする。


とりあえずスーツはベッドの上に簡単に畳んで置いて、ジーンズにパーカー歩きやすいように昨日の革靴からスニーカー履き替える。

テントを撤収して例のストレージに入れる。

テントを構成するポールはきちんと普通のサイズなので多少の重量はあるが袋に入れると重さが消える。

不思議には思うが、「そうゆうモノ」と割り切るしかないだろう。

異世界という概念すら、肇には枠外の存在なのだから。


パーカーの上に鈍色と言うか薄墨色のマントを羽織る。パッと見は迷彩模様のない薄いカーキ色アウトドアな色だ。

マントの中は例の剣も鞘をデニムのベルトループに付けている。


川沿いに歩きながら、朝にテントの脇の木の上に見つけた果実を食べてみる。

見た目はリンゴのような手のひらサイズの赤い果実。キャンプ用ののナイフで半分にすると中は…やっぱりリンゴだった。


実はこの仮リンゴは手に取った時に直感的に食べられることが分かったのだ。

簡易的な鑑定能力をもらったのだが早速役に立ったみたいだ。


肇はあまり分かっていなかったが、おおよそ異世界と言えば、鑑定やストレージ、言語翻訳はド定番である。

テントはストレージの応用で空間拡張されているのだが、おそらくこの世界ではレアなアイテムになるだろうと思い信用できる人間が出来るまでは秘密にしておく事にした。


川沿いを1時間くらい歩く。 くらいと言うのは腕時計でおおよその時間が分かるからだ。異世界も同じ24時間とは限らないかも知れないが目安にはなる。

途中何度か、川の反対側の茂みから物音がして緊張したが、立派な角がある鹿のような動物?がコチラを見てまた茂みに戻っていった。


(コチラの世界に来て初めての遭遇だった。

もし食べ物が手に入らなければ本意ではないが、もしかしたらあの鹿を狩らなくてはいけないのかも知れないな。)


さらに歩く事1時間。


川に小さな橋がかかり反対サイドの茂みが途切れ、道のようなものが見えた。


川を渡るか、道の方に歩いてみるか悩むな…。

少し考え、道があるなら人がいる確率も上がるだろうと思い、そちらを選び歩き出す。


更に歩くと遠くから人の怒鳴り声の様なものが聞こえる。何か言い争いをしてるのだろうか? 声が聞こえると言うことは人がいる証拠である。

ようやく人に会える安堵感で、肇は急いで声の方へ向かっていった。


















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