05 博物館とマドレーヌの夢

 アトムスは海底連邦の首都で、政治、経済の中心地として発展している。

 面積はおよそ100平方キロ、人口は約200万人でフランスのパリ市と同規模の大都市だ。


 機関車ドーラの4人は、マドレーヌの案内で市内観光に出かけた。

 最初の目的地は街の中心にある“ピース広場”だ。この広場の中央には“平和の女神”が建っている。この女神像は海底連邦設立と同時に建てられ、人類が二度と同じ過ちを犯さないよう願いを込められたそうだ。しかし、現実には違う道を歩み始めているということで、マドレーヌの表情が少し険しくなったことがわかった。


 次に彼らはアトムス博物館へと向かった。さまざまな展示がある中で、アトムス市の模型があり、その概要を知れた。

 アトムスの市街地はそのピース広場を中心に放射状に街路が延び、同心円状に周回する道路と交わっている。シードームが円形のため、このような整然とした都市になったようだ。

 ピース広場に近いエリアは政治の中心地として、連邦議会や裁判所、大統領官邸など、三権の施設が集まっている。

 それから少し離れると、経済、文化の中心地として、大型のショッピングモールや劇場、博物館や美術館が立ち並ぶ。

 さらにその外側が住宅街となっていて、大小様々な家が立ち並ぶ。最外縁部は自然公園になっていて、シードームの端部までを覆っている。

「アトムスも美しい街ね。こんな街なら住んでみたいわ」

 ナツが感想を言った。

「それはそれは、ありがとうございます。ぜひ住んでみてください」

 マドレーヌが応えた。

「マドレーヌさんのお家はどの辺なの?」

「私の家は、ええとこの辺です」

 彼女は模型を指差した。それは中心に近いエリアで、模型でも豪邸とわかるものだった。

「えっ、マドレーヌさん、こんな大きな家に住んでいるの?」

「そんなに大きくないですよ」

「でも、模型でもこんなに大きいってわかるよ」

「ご先祖さまに有力な方でもいらしたんですか?」

 アキが尋ねた。

「はい。実は私の曽祖父はシードームの開発に携わってまして、その功績を認められ、この自宅を貰ったそうです」

「えっ!シードーム作った人って相当凄いじゃん!」

 一同が驚嘆の声を上げた。

「ええ、私たち家族の誇りです。ただ、私はそんな凄くないですけどね。シードームの構造とかもさっぱりですし…」

「マドレーヌさんも大統領補佐官よね」

「それもコネで入ったようなものです。本当は他にやりたい事あったんですけどね」

「というと?」

「本当はバリスタになって自分の店を持ってみたいんです。来た人がホッと落ち着けるような空間に」

「それならもうなれるよ。マドレーヌさんのコーヒー超美味しかったもん」

「ありがとうございます。この仕事になって、お客さまとお話しできるようになり、少しずつですが夢に近づいています。そう考えると、今の仕事は下積みとして丁度いいですね」

「そうだよ。あんだけ美味しいならすぐにでもお店開けるし、私たちも常連になるもん」

「まあ、ではお店を開いたらすぐにお手紙書きますね」

 マドレーヌが「ふふ」と微笑みを浮かべると、4人も笑顔になった。昨日の出会った時はギクシャクしていたが、今ではだいぶ打ち解けてきた。

「さて、みなさん、次はどこに行きますか?」

 マドレーヌが模型を見ながら行った。

「マドレーヌさんのおすすめは?」

「そうですね、外側の自然公園ハイキングも良いんですが、今からだと遅いのでまた後日でしょうか?あとはオペラなどはいかがでしょうか?ロングラン公演のおすすめがあるんです」

 4人はすぐそれに賛同して、中心街にある“オペラ・ド・マーメイド”へと向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る