02 タートル鉄道専用車庫
“20XX年3月12日 アトムス中央駅”
14:15、タートル中央駅からの海底超特急3列車“マシラウ3号”が定時に滑り込んだ。駅ホームには大統領をはじめ、要人が立ち並び歓迎のムードに包まれていた。
歓迎のファンファーレが鳴り響き、花吹雪が舞い、踊り子たちのダンスが披露されている。
通常、ここまで歓迎する時は列車側にも要人が乗車している。例えばタートル政府の要人だったり、途中の駅から乗車した要人などだ。
しかし、この列車には特別な乗客などはいない。貨物に関しても一般的な物しかないはずだった。
「うわっ、すごい歓迎。噂には聞いていたけどここまでとは思わなかった」
機関車の中でナツが言った。
「週2回、タートル鉄道の列車が来る時は毎回こうなんだってね。昨日のゴルとは大違い」
「ゴルは酷かったわね。まるで私たちが悪者みたい」
列車が停止位置に止まると、花火が打ち上がった。まるで到着したことを全国民に伝えるようだった。
『マザー・タートルからの皆さま!ようこそ海底連邦の首都アトムスへ!』
ホームには横断幕が垂れ下がっていた。この列車は途中でいくつかの駅に停車しているから、全員がマザー・タートルからの乗客とは限らないが、あくまでも列車そのものを歓迎している様子だった。
機関車ドーラの任務はホームで乗客と貨物の降車を確認したあと、客車と切り離して完了になる。今日はホームで次列車へ引き継ぎだから、車庫まで運転する必要はない。自分達だけ回送すればそれでいいのだ。
だから、早く降車が完了して欲しいのだが、降りる乗客一人ひとりに歓迎の挨拶がされていて、なかなか終わる気配が見られなかった。
30分がたち、ようやく全ての乗客と貨物の降車が確認できた。今日の切り離し担当はナツだったので、速やかに連結部に行き、作業を始めた。
「いやぁ、お待たせしました」
「時間かかったね」
「なかなかスムーズに行かなくて。まあお客さま相手に早く行けなんて言えないですし…」
「クロイドもおつかれさま」
お互いに労いの言葉をかけて、切り離しが完了した。
『ボッ』
短い汽笛を鳴らし、機関車ドーラはホームをあとにする。この先は信号に従って車庫まで進む。いくつかのポイントを超え、前方に車庫が見えてきた。それはこれまで見てきた車庫とは大きく異なっていた。
通常、車庫とは平屋建てで簡素なものが多い。マザー・タートルのタワー型車庫は例外として、他の大半の車庫はどちらかと言うと小屋という感じに近かった。
アトムス中央駅からここまでいくつかの車庫の横を通って来たが、いずれもよくみるタイプのもので、自分達もそういう車庫を予想していた。
だが、タートル鉄道専用の車庫は違った。1階部分こそ、よく見かけるコンクリート製の車庫で機関車1〜2両分入るスペースがある。興味深いのはその上部で、住宅、それも高級ペンションのような建物があった。それが2軒並んでいて、もう一軒の車庫はシャッターが開いていて、機関車が見えた。その機関車はマザー・タートルで見た事のあるものだった。
ナンバープレートを見ると“2451”とある。タートル鉄道の機関車の数は多く、大半の機関車は知らない。だが、それは4人が知っている機関車の1つで、“ポロック”だった。どうやら出区点検の最中であり、こちらの存在に気づくと手を振った。
ハルは『ボッ』と軽く汽笛を鳴らし返答した。遠い異国の地で、見慣れた顔に出会うと、底知れない安心感を感じられた。
車庫の前には転車台があり、もう一つの車庫に入る。内部に入ると、ずらっと作業員が待機していた。
「なに、すごいいる」
ナツが漏らした。
「俺たちの大切なドーラをどうにかしようとするなら容赦しねぇが、そんな雰囲気はなさそうだな」
フユは警戒したが、確かに威嚇というより歓迎の雰囲気だった。
停止位置に停車し、マネージャーのアキが最初に出る。
「ようこそ、アトムスへ!長旅お疲れ様でした」
運転室扉の外に、1人の女性が立っていた。
「私はマドレーヌ・ラパラ、海底連邦政府大統領補佐官で、滞在中皆さまのお世話係をいたします。よろしくお願いいたします」
そういうと彼女は深々と一礼した。突然の丁寧な歓迎に、アキは一瞬動揺したが、すぐにいつもの調子を取り戻した。
「初めまして、私はアキ・ハート、この機関車ドーラのマネージャーです。こちらこそ、よろしくお願いいたします」
「ご丁寧にありがとうございます。さて、お疲れのところ申し訳ございませんが、こちらに清掃スタッフを準備させています。よろしければ、機関車の掃除をしてもよろしいでしょうか?」
「掃除ですか?」
「はい、私たち海底連邦が誇る一流のスタッフが、御機関車を隅々まで綺麗にしてみます」
突然の提案にまた驚いた。洗車機が用意されている場合は多いが、人力で掃除する申し出は初めてだった。
「うーん、少々お待ちください」
アキは一瞬考えた。そんな申し出、断る理由など無いのだが、一応車両管理の責任者であるフユの意見を聞こうと思ったのだ。後ろで待機していたフユに意見を聞いた。
「そうか。まああまり他人に触れさせたくは無いが、まあ悪い奴らには見えねぇし、お願いするか。ただし、外側だけで、俺がずっと見ているがな」
「OK、そう伝えるわ」
アキはフユからの伝言をマドレーヌに伝えた。
「かしこまりました。では、乗務員の皆さんはどうぞ上の滞在フロアまでお越しください。簡単ではございますが、軽食をご用意しております」
「軽食!お腹空いてたんだ」
軽食という単語に、ナツが反応した。今は15時過ぎ、ちょうど小腹が空く頃だった。
「では頂こうかしら。ごめんねフユ、あとはよろしく」
「おう、楽しんでこいよ」
3人はマドレーヌに続いて上階へ向かった。
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