第2話 海底超特急“マシラウ2号”
01 海底連邦
空を見上げると、ゆがんだ太陽が見えた。
ゆらゆらと揺れる太陽は、どこか寂しそうにも見えた。
海底に国がある。最初、その話を聞いた時には何かの冗談かと思った。
海底国といえば、伝説のアトランティス大陸だとかムー大陸を思い浮かべるが、当然、今の科学ではその存在は否定されている。
ただ、それはあくまでも“今の地球”の話である。異世界に行けば、海底に国があってもおかしくない。いや、もしかしたら、これは大昔か、あるいは遥か未来の地球の姿なのかも知れない。
そんな信じられないような世界でも、タートルトンネルで繋がれば、簡単に行く事ができるのだ。
“20XX年3月15日 海底連邦首都アトムス”
機関車ドーラの乗務員たちは、海底連邦の首都であるアトムスに滞在していた。
ここは海底に街が存在し、街全体が“シードーム”というドームに覆われている。シードームは深海で暮らしていけるよう、海上にそそぐ太陽光を増幅させる機能を持っている。
最も、それは“愚”であるという意見も多い。もともと人類は地上に暮らしていた。だが、環境破壊により上空のオゾン層を破壊し、有害光線が大地に降り注ぐようになった。
地上の大多数の生物はここで死に絶え、生き残った僅かな人類は地下シェルターを作り暮らしていた。しかし、環境破壊と有害光線により極地の氷は溶け、高温多湿な環境になった結果、大雨が続き大地は海中に没することが目前になった。
大地が海中に没することが予想されるとき、得られる選択肢は2つである。1つ目は、ロケットを作り宇宙に脱出することだ。
しかし、移住に適した星を発見できなかったほか、既にロケットを打ち上げるだけの燃料や土地を確保する猶予は残されていなかった。
そこで、もう1つの選択肢、海上に暮らすことが検討された。しかしこれも、海の水がすでに有害物質で汚染されており、たとえ船を作って逃げ込んだとしても、すぐに船底が腐食し、長くは持たないことが明白だった。仮に船ができても食糧の問題が浮かび上がった。
万事休すかと思われたが、ここで奇跡が起きた。
ある科学者が地下シェルターを掘った時に出た残土から、見慣れない鉱石を発見した。研究を続けた結果、それは今までとは全く違う物質ということがわかった。更に研究を続けるとエネルギー源になることが判明した。
科学者たちはこれを“ウミリウム”と名づけ、現状を打破する突破口を探った。そしてついに、シードームの発明に辿り着いたのだ。
シードームはエネルギーを発する鉱石“ウミリウム”をシードーム発生機に入れることで生成される。発生機を増やし、ウミリウムを多く入れれば入れるほど、巨大で強固なシードームになる。
土壇場でシードーム発生機を開発した人類は、持てるだけの資源を投入し、発生機を量産した。そして遂に、全員が退避できるだけのシードームが完成した。前代未聞の海底移住作戦はこのようにして行われたのだった。
それから200年、人類はウミリウムの恵みの元、シードームを増やし再び繁栄の道を歩んでいった。
「ハーイ皆さーん!アトムスでのひとときをエンジョイしてますかー??」
ハイテンションで声をかけられた。到着してからの4日間、ずっとこんなテンションだった。
声の主は、アレクサンドル=イスマエル・マルタン、何を隠そう海底連邦の現在の大統領だ。
「楽しかったよ」
ナツが答えた。
「それは良かった!明日には帰ってしまうのですね、残念です…」
マルタン大統領はわかりやすく肩を落とした。
「そんなに落ち込まなくても。明日には別のチームが来ますよ」
ハルがなだめるように言った。
「そうですね。でも皆さんとのお食事が楽しかったので…。本当は今日もご一緒したかったのですが、仕事の都合でもう行かなくてはなりません。また明日の出発時には見送りに行きますので!」
そう言うと、彼は大手を振って出て行った。
「ずいぶんと私たちを歓迎してくださったけど、そんなにするものなのかしら?」
アキがふと口にした。
「そうですね…、いつもタートル鉄道の皆さんとお話しする時、ご気分はお高めですが、今日は…、まあいつもと同じですね」
アキの疑問に返したのは、マドレーヌ・ラパラ、大統領補佐官で、タートル鉄道乗務員世話係に任命されている。
「あら、いつもあんな感じなんですね。初日からすごい歓迎だなとは思っていましたが」
「ええ。ただ、皆さんとお話しする時以外はまるで別人ですよ。特にゴル政府の方とお話しする時などは」
そう言われて、数日前の出来事を思い出した。タートル中央駅からここに来る途中のゴル駅では、ホームに武装した警察官や軍人が立ち並び、列車に対する敵意が剥き出しだった。
乗り降りする乗客や貨物に対し厳重にチェックをしており、ネズミ一匹も見逃さない様子だった。
一方、ここアトムスでは大統領自ら出迎えるなどの熱烈な歓迎ぶりだった。
アトムスもゴルも同じ海底連邦に属する都市なのに、なぜここまで対応が違うのか、最初は疑問だったが、しばらく滞在する間にその理由がわかった気がした。
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