第1話リサ・バード急行

01 旅の前

 水平線の先に太陽が沈んでいく。1日の終わりを告げるその景色を、ハルはじっと眺めていた。日中だと照りつけるような日差しが、この時間になると体を包む暖かいものになっていた。パラソルの下に置いたビーチチェアにかけたハルの体を、生暖かい風が通り抜ける。


 ここは、マザー・タートルのサマーフィンにあるパシフィックビーチ。島で一番大きなビーチで、島民にとって憩いの場となっている。

 巨大なカメの左ヒレの下側が全てビーチとなっており、長さ約20km、広いところで幅100mある規格外なビーチだ。ビーチ内は約770mごと、26ゾーンに区分けされていて、胴体に近い側からA,B,CとZまでに分けられている。各ゾーンの中央付近に、パシフィックLRTの停留所があり、誰でも無料で移動することができる。

 真ん中より少し先端側、Rゾーンは“レールウェイビーチ”と呼ばれ、タートル鉄道の専用キャビンがある。島内でも有数の大企業であるタートル鉄道の福利厚生施設となっており、常にたくさんの職員で賑わっている。


「ハル、お待たせ〜」

 ゆっくりと一日の移ろいを見ていたハルのもとに、元気な声が響く。

「みんなお帰り」

「お留守番ありがとう」

「悪りぃ奴は来なかったか」

「平気だよ」

「さあて、パーティパーティ」

 そういうと、ナツは持っていた袋からお酒やお菓子を出し、テーブルの上に載せた。

「え、まだ飲むの?明日仕事じゃん」

「ナツだめよ、これは持ち帰って向こうに着いたら飲むって言ったじゃない」

「いいじゃん、ちょっとだけ、味見味見」

 ナツはそういうと缶の蓋を開け、カシュっと良い音が響いた。他の3人は「あーっ」と言ったが、ナツはゴクっと美味そうに飲んだ。

「あー、美味しい」

「ナツー、もうこの子ったら」

「でもホントに美味しいよ、この期間限定発売のパイナップルサワー」

「美味しそうだけど、そんなに飲んで平気なの?」

「私1人で飲むなんて言ってないもん、はい、ハル」

 ハルはナツから半ば強引に缶を渡された。しかし、暑い中、こんな誘惑を出されたら、引くに引けない。

「しょうがないな〜」

 ゴクっと美味そうに飲んだ。その表情は半ば嬉しそうだった。

「あー、ハルも何なのよ?」

「うん、でもホントにうまい!」

「やったー!ハルも共犯だ!」

「おい、アキが困ってんだろ、いい加減にしろよ」

 フユはそう言うとハルから缶を奪い取った。そして、一気に飲み干した。

「こういうのは、大人の飲み物なんだからお子ちゃまには早い」

 そのまま捨てるのかと思っていた3人は、一気飲みしたフユを見て呆気に取られていた。最初に口を開いたのはアキだった。

「ちょっとフユ、私の分は?何で飲み干しちゃったの?」

 先程よりも強い剣幕で迫っていった。

「え、え?」

「あーあ、怒らせちゃった」

「ここはアキに飲ませるべきだったんだよ」

「え、だって明日仕事だから止めてたんじゃ」

「そうは言ってもみんなが飲んでるの見てたら、飲みたいに決まってるじゃない!」

 アキは袋に残されたもう一本のパイナップルサワーを見つけた。そしてプシュっと開けるなり、一気に飲み干した。

「バァー、うまい!」

「結局アキが一番飲んでるじゃない」

「飲まなきゃやってられないわよ」

 そして一同に笑いが起きた。フユも少し困惑していたが、3人につられて笑いだした。

「はあ、面白い。さ、今度こそホントに帰るわよ」

 アキがテキパキと指示を出し、4人は帰宅の途についた。

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