プリムラ

華鈴

第1話

「俺たち、別れよう…」

「うん…」


大学3年の冬。

大葉 志穏(おおば しおん)、半年付き合った彼氏と呆気なく別れ、失恋した。


別に彼との別れが来ることなんて、なんとなくそうかなって予想出来てた。

彼の気持ちが離れているのも感じてたし、私だって…

でも、私にとって別れはやっぱり辛かったらしい。


あ…ダメだ。抑えてたものが込み上げてくる。


どこで間違った?

何がいけなかった?

他にもっと、何をしてあげればよかった?


彼に、

どうやって愛されればよかった…?


そんなことをうじうじ考えながらベットに寝転び、静かに目を閉じる。


「志穏!」

まぶたの裏にはどうしてか、さっき別れた彼氏ではなく、いつの日か笑顔で私の名前を呼んでくれたあいつの顔。


彼氏と別れたばっかりなのに。

なんでまた…


失恋した時、必ずと言っていいほど思い出すあいつのこと。


ただの、私の一方的な片想い。

しかも、想いさえも伝えられずに儚く散った恋。

特別優しくしてもらったり、私だけを大切にしてくれたりしたわけじゃない。

あいつ以外にも好きになった人はいるし、経験は少ないけど、他の人とだって恋愛してきた。

さっきの彼とだって、あいつと過ごした時間よりもずっと濃い時間を過ごしてきた。


それなのに、


なのに、どうして私はあいつを思い出すんだろう。


絶対にないけど、

でももし、

もしも、あいつと上手くいくいってた未来があったのなら今はどんな自分になっていたのかな?


笑顔で私の名前を呼ぶあいつの顔が忘れられない。

なんでいつまで経っても忘れられないの?


早く、あいつのことなんて忘れてしまいたい。

だって、

あいつなんかに恋なんてしてなければ、きっと、今頃、もっと幸せだったはずなのに。

なのに、なんで私は今でもあいつのことを思ってしまうんだろう。



青空が光る、生暖かい日。

高校1年の春。

あいつ、神永 洸(かみなが こう)と出会った。


洸はみんなに好かれる性格だった。

いじりがいがあるのか、クラスの男子とはすぐに仲良くなってあっという間にクラスのムードメーカーになっていた。


クラスの男子らとバカやって、先生に注意受けて、とぼけた顔して見え見えの嘘ついてそれを見てるクラスのみんなが笑って、洸も笑って。


そんな姿を見て私も笑ってた。

いつも馬鹿だなと思いながらも、なんか楽しくて笑ってた。


洸は男女問わず誰とでも仲がいい。

それが私には眩しかった。


人見知りの私は、そんな友達がいる訳でもない。ましてや、異性の友達なんて。

男子に免疫が無さすぎるのか、何話していいかわかんないし、いつも緊張してしまう。

そんな自分が嫌だった。


でも、洸は違った。

洸は、洸と話す時はいつも楽しい。

もちろん、緊張はするけど、でも嫌な訳じゃなくて。もっと話したくて。

バカやって、私が「ふざけんな」って言うくらいだけど、しょうもないけど楽しくて、この時間が続いて欲しいななんて。

そんなことを思うようになってた。


好きだ。

そう認めれば、楽なんだろうけど認めたくなかった。

だって、洸は誰にでも優しい。話しやすくて面白い。少しチャラいけど、それは洸のキャラだとみんなに認められてて、そんな洸を好きな人なんて私以外にも沢山いる。

私はその中の1部になんかなりたくない。

だから、絶対好きだなんて認めない。

そう思ってた。


だけど…


毎日、笑顔で「おはよう」って言ってくれることや、絶対に私が勝つってわかってるのにテストの点を競って、私の好きなチョコを奢ってくれること。席なんてどこにでもあるのに、私の席に座って友達と話してること。たまたまなんだろうし無意識なんだろうけど、私からしたらそのほんのわずかなことでも意識してしまう。

嬉しく思ってしまう。


バレンタイン前に「俺にもチョコちょうだい」とか言い出す洸。

絶対他の子にも言ってるはずなのに私だけかもしれないと期待してしまうバカ。

わかっているのに、それでもチョコを作ってしまうバカ。

結局、他の子にも貰ってにやにやしてる姿みて、洸にも自分にも呆れて結局悲しむのは私だけのバカ。

そんなバカばっかりの繰り返し。


そんなこと繰り返してたら、

認めなくても、わかってしまう。


私は、洸のことが好きなんだって。


嫌だ嫌だ嫌だ。

あんなチャラくて、適当なやつ。


何度自分に言い聞かせたか。

でもダメだった。


昼休み。

みんなで弾む恋バナトーク。

このクラスだったら誰が1番可愛いかとか好きだとか。

洸に順番が回ってくる。


「えー、俺はね…」


周りに聞こえるんじゃないかと思うほど心臓がバクバクしてる。


「志穏が好き」


洸の言葉に目を見開く。

当の本人はそんな私を見て、イジれて満足そうに笑っている。

周りは冷やかす声。


「はぁ?きっも!ばーか。」


なんて、可愛くない言葉で反抗するけど恥ずかしすぎて洸の顔が見れない。

何とも思ってないフリして手で顔を隠しながら誤魔化した。


高校生の軽いノリ。

でも、そんなノリでも、軽い気持ちでも好きだなんて言わないで。

苦しいよ…


ああ、ダメだ…


たぶん、私、


めっちゃ、好きだ。


そんな気持ちを洸に抱えたまま、あっという間に3年がすぎてしまった。


気持ちを伝えたら今の関係は絶対に終わる。

そんなことわかってたし、こんな私が一方的に想っている気持ちなんて持ってても疲れるだけだって3年も経てばわかっていた。

絶対に気持ちは伝えないし、大学に行ったらちゃんと私を好きでいてくれる人を好きになる。

卒業と同時にあいつへの洸への気持ちを終わりにする。

そう、決めていた。


高校生活最後の日。

私は、みんなとの別れに大泣きする洸を呼んだ。


「洸、写真撮ろ!最後なんだし。」

「おう!」


これで、本当に最後。

そう思って撮った写真。

洸の顔は泣きすぎてぶっさいくだった。



ベッドから体を起こしスマホでその時の写真を開く。


「ほんとぶっさいくだな」


久しぶりに見た写真に思わず笑ってしまう。


きっと、私が失恋した時、洸のことを思い出すのは自分の募った思いを伝えられず、不燃焼で終わったからだ。

だから今でも、ありもしない洸のと未来を期待してしまうのかもしれない。


洸は私だけにじゃないし、私を特別にはしてくれなかった。

だけど、洸と過ごしていた私は私がいちばん私らしく素で笑えていた。

洸との思い出は辛いことよりも楽しいことの方が鮮明に覚えてる。

きっと、誰よりも大好きだった。

だから、きっと思い出すんだ。


ねぇ、洸。

私は、洸に出会って恋をして楽しかった。

洸との思い出の詰まった高校3年間は私にとって本当に大切な時間だった。

洸と過ごしている自分が1番好きだった。

でも、その反対で洸と一緒に居ない時の自分がどうしようもなく嫌いだった。

嫉妬まみれで見にくくて、呆れていちばん嫌いだった。

でも、それでも好きだった。


もしかしたら、これからも失恋をする度に洸を思い出すかもしれない。

でも、もうあんな苦しい恋はいや。

いつかそんな日が来ないように、洸との思い出よりも過ごした時間よりも、私が私を好きでいられる人を見つけて幸せになってやるんだから。


そう思いながらも、きっと私は洸との思い出を大切にしながら生きていく。


プリムラの花言葉

青春の恋。又は、君なしでは生きられない。


fin

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プリムラ 華鈴 @karinsirayuki

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