カプチーノ 2023.10.23
夏が終わってから暫くの間休業していたバーあめにじが最近また営業を始めた。
夏と秋の間というのは曖昧だ。いつのまにか、私の前髪を湿らす熱い日差しは柔らかくなっていたし、夕方から夜に変わる時間が早くなっていた。
少しずつ紅く染まり始めた木々を窓ガラス越しに眺めながらぼうっとしていると、カランカラーンと入口の方からベルの音がした。
「店長! お久しぶりです!」
久しぶりに見る副店長は、夏よりも髪の色が明るくなっていた。
「ふくてんちょ、ひっさしぶりぃ!」
夏よりも髪が長くなった私は副店長に向かってピースをする。
副店長が上着をハンガーにかけ、カウンターに腰掛けると、私はカプチーノを作り始めた。
「今日は寒いですね。秋になったばかりというのに、もう冬ですよ」
副店長がカウンターの横に貼られたカレンダーを眺めながら目を細める。
「このカレンダーがあと2回めくられたら、僕が深夜にバーあめにじを見つけてから1年が経つんですね」
懐かしいなぁとでも言うように、副店長は頬杖をついた。
「懐かしいね。寒そうなふくてんちょ、カプチーノどうぞ」
「ありがとうございますー!」
「私も一緒に飲むね」
私たちは昨年の12月のことを思い出しながら、カプチーノを飲んだ。
「私ね、カプチーノを飲むとき、1口目に上の泡の部分だけを飲むのが好きなの」
「へぇー! 知りませんでしたよ、てんちょー!」
「あー、やっぱりバーあめにじは居心地良いなぁ」
「僕もばめにじ好きですよ!」
カプチーノを飲み終えると、副店長がカップの底に残ったコーヒーを見て呟いた。
「僕たちの髪の色、このコーヒーに似てませんか?」
「たしかに! カプチーノ色だね」
「今は2人ともブラウンですけど、店長は本当はピンクにしたいんでしたっけ?」
「そうそう! ぴんく!」
「ピンクだと、いちごラテ色ですかね」
「美容院でそうオーダーしようかな笑」
「いいと思いますよ! じゃあ僕はクリームソーダ色にしようかな」
「クリームソーダ色って何色ー?笑」
「緑です!」
私たちはカウンター席に座りながらのんびりとおしゃべりを続けた。窓の外の景色が夕焼け空になり始めると、副店長の髪の毛が夕日に照らされてキラキラとブラウンに光った。
今度ばめにじで会うときは、副店長はどんな髪型になっているのかな。
副店長の髪の毛を眺めていると、副店長はいつのまにか眠ってしまっていた。
眠いのに寝たくない。朝の光は眩しすぎる。
ここは、そんなあなたの居場所。
そんなあなたが安心して眠れる居場所。
バーあめにじの店内に降り注ぐ光は柔らかく、そして暖かいのですから。
今日も店内に二人の声が響く。
「いらっしゃいませー」
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