2023.4.18 カフェラテ

 バーあめにじの前の桜色が少しずつ緑になってきた。


 私も副店長も新生活が始まり忙しい日々を送っているが、それでも私たちは毎日バーあめにじに来ている。


 今日は嫌なことがあった。重い腕を上げ、ドアを開ける。背の低い私にとってバーあめにじのドアノブの位置は高すぎる。一体誰が設計したんだ。


「ただいまぁー」


「店長、おかえりなさい」


「はーつかれた」


「おつかれさまです」


「副店長もおつかれさま」


 私より早く来ていた副店長はカフェラテをカップに注いでくれていた。


 深呼吸をすると、コーヒーの香りとミルクのふんわりとした甘さで胸の中が満たされた。


「いただきます……おいしい!」


 私が目を輝かせてカフェラテをもう一口飲もうとすると、副店長がまにまにと笑った。


「コーヒーなのに、涙目にならないんですね」


「え、何のことですか? 涙目って」


 私が「きっ」と軽く睨むと副店長は「すみませーん」とぺこぺこお辞儀した。


「ふああ」


「店長、眠そうですね」


 カフェラテを飲んで目が覚めるどころか、疲れからどんどん眠くなってきた。


「今日嫌なことあったんだよね」


「え!」


 副店長が驚いた後、私の目をじっと見て口を開いた。


「僕は」


「ずっと副店長の味方ですから」


 飲んでいるのはブラックコーヒーではなくカフェラテなのに、気が付けば目に涙が浮かんでいた。


「……副店長、これ、カフェラテ色をしたブラックコーヒーでしょ」


「違いますよ。カフェラテ色をしたカフェラテです」


「副店長、ありがとね」


「いえいえ。いつも頑張っている店長は僕には朝の光より眩しいです」


「そうー?」


「ああ」


「『ああ』なんて普段使わないくせに」


「そうですね」


「カッコつけちゃって〜」


「たまにはつけさせてください!」


「ふふ、今日もマッシュにセットしちゃって〜」


「マッシュという名の何もしてないヘアーです」


「似合う似合う」


「ありがとうございます! この髪型楽でいいんですよねー。夏はさすがに前髪上げると思いますけど」


「さすがおしゃれな副店長」


「そんなことないですよ〜」


 いつもみたいにそんな何気ないやり取りをしていたら、少し元気が出てきた。


「副店長、ありがとう。ちょっと元気出てきた」


「よかったです!」


 元気がなくなった時や嫌なことがあった時はバーあめにじに来るのを私はおすすめします。


 眠いけど寝たくない。朝の光は眩しすぎる。ここはそんな人のための居場所だから。


「店長、今度またラジオやります?」


「いいね! やろ! リスナー来てくれるといいなあ」


「宣伝しちゃいましょ!」


 今日も店内に二人の楽しそうな声が響く。


 元気が欲しくなった時はバーあめにじの扉を開けてみてください。


 髪をアッシュに染めている店長と、マッシュという名の何もしてないヘアーの副店長がいつでも待ってますから。


「いらっしゃいませー」って。

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