2023.3.24 クリームソーダ
眠いけど寝たくない。朝の光は眩しすぎる。
私は今、まさにその状態になっている。
眠い。
眠い。
眠い。
「眠い」
私がカウンターのテーブルに突っ伏してそう呟くと、カウンターの中で副店長がグラスを磨きながら、
「わっしょいわっしょいっ! うぇいうぇいうぇいっ」
と謎の呪文を唱えながら私の目を覚まそうとしてきた。
「店長、元気ないんですか……?」
「うん……」
「そうですか……最近バーあめにじ休業してましたもんね」
「ごめんね、副店長」
「いいえ、僕はいいんですよ。店長が元気でいてくれるのが一番いいことですから」
そして副店長が磨いていたグラスを2つカウンターの上に置き、ウェイウェイ言いながら冷蔵庫から何かを取り出した。
「メロンソーダ?」
「それだけじゃないですよ」
副店長は冷凍庫から氷とバニラアイスを取り出すと、グラスに氷を入れ、メロンソーダを注いだ。すると、しゅわー、という音とともに噴水のように泡が湧き出た。氷がメロンソーダに浮かぶと、副店長は丸く形を整えたバニラアイスをそっと乗せた。
「クリームソーダ、一緒に飲みませんか?」
「副店長、ありがとう」
私たちは隣に並んでカウンター席に座った。私がクリームソーダを飲まずに黙っているからか、副店長も飲み始めなかった。
「……店長、元気ですか?」
「元気じゃないー」
「そっか……」
ごめん、副店長。
心配をかけているのに、副店長にそんなことも言えないほど私は原因不明の憂鬱に襲われていた。
気が付けば、バニラアイスと氷が溶けてきていた。マーブル模様のぐちゃぐちゃが私の心の中のようだ。
いつの間にか溶けてしまっている私はクリームソーダの氷の部分。
いつの日か詠んだ短歌を思い出していると、副店長が突然ぽつりと呟いた。
「僕たちは孤独なのかもしれませんね」
私が短歌を口に出して呟いてしまっていたのか、それとも副店長も溶けた氷を見てその短歌を思い出したのか。
それは分からないが、副店長と私はどこか似ているところがあるのかもしれないと思った。
「元気ない時は僕が話しかけに行きます」
話を聞くよ、じゃなくて、話しに行くよ、
なのが副店長らしい。
「ありがとう」
私たちはバニラアイスと氷が溶けてしまったクリームソーダをストローで啜った。
メロンソーダなのにメロンの味がしなかった。
この世界の中に私はどこにも、いない。
人間は孤独だ。
寂しいよ。
眠い。
眠い。
眠い。
だけど今はその眠さが心地よい。
そのまま眠ってしまいたくなる。
眠い……。
ゲシュタルト崩壊を起こしそうなくらいの量の「眠い」が私を襲う。
「副店長、私少し寝ようかな」
「家に帰ります?」
「ううん、ここで寝る」
私はカウンターに突っ伏し自分の腕を枕にして目を瞑った。
おやすみ。
私はその短い眠りの中で、夢を見た。
副店長が祭りで神輿を担いでいる夢だった。
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