三
『茜、来たぞ』
「はーい」
彼女、茜は小さな声でそう返事をした。
その声に反応して隣に座る少女が茜の方を見て微笑んだような気がしたのだが、気のせいだろうか。そして、茜の背後の上空を見つめた気がしたのだが。
そんな事には微塵も気付かず茜は椅子から立ち上がりフェリー乗り場の方に向かって歩き出した。
「どこ?」
フェリー乗り場の方に向かっていた足が止まり周りを見渡した。
『右側の奥に止まってる』
「これって私にも見えるように出来ないの?」
『何故だ?』
月は少し不満げにそう聞いた。
「いや、私がフェリー見えないと乗れなくない?」
何も見えない目の前の光景を見つめながらそう茜は言った。
『ん?あぁ?まぁ、確かにそうか。ちょっと、待ってろ。見えるようにしてやる』
「ありがとうー」
『どうだ?見えるか?』
「うん!見えるよー。さすが、月。仕事が早いね」
茜は嬉しそうにそう言った。
「あれがそうなんだ。思ったより立派なフェリーだね。50人くらいは余裕で乗れそうだけど。そんなに乗る人いるの?」
『ホテルがあるって話だったろ?そのホテルに行く人も乗るんじゃねえのか。お前が働く予定のホテルだろ?』
「あっそっか。ホテルに行く人もこのフェリーに乗るのか。確か、人ならざる者の為のホテル?だったっけ」
『まあ、昔は普通に人間が泊まるホテルだったがな』
「ふうーん。そうなんだー」
「それでこれをあそこに立ってる人に見せたら良いの?そういえば、さっきまではあそこに人が居なかった気がするんだけど」
茜は目の前の光景を見て不思議そうに、首を捻っていた。
『あぁ、あいつもこっち側の奴だろうな』
「こっち側ってつまり、人ならざる者ってこと?」
『そうだ』
「なるほど。そろそろ、行くかー」
そう言うと、茜は再び歩き出した。
「お願いしまーす」
そう言って、茜は手に握っていたお守りを男の方に向かって差し出すように見せた。
「はい。OKです。どうぞ」
「ありがとうございます」
そう言うと、茜は船の中に入っていった。
中に入ると辺りを見回し、どこに座ろうか悩み結局入ってすぐ左手のモニターがある一番前の席に座った。
茜が中に入った時点で中には多くはないが何名か既に座っていた。
茜の隣の席には若い男女二人組と思わしき人物が座っていた。
男の方はシンプルなシャツにジーパン、ビーチサンダルで、足元に石垣島で買い物をした食料品が置いてあった。
そして、その隣の女の人はギャルっぽい派手な格好をしていた。金髪のゆるーくカールした髪を後ろで束ねて、ピンク色のタンクトップにオフホワイトとオーバーサイズのカーディガンに短いジーンズを履いている。
そして、彼女も大きなスーツケースを持っていた。
茜は密かに2人を見てもしかしたら、自分と同じでホテルで働く人なのかなぁ、と思ってした。
もしくは、食料品を持っているからすでに働いているという可能性もある。
それからしばらくして、フェリーが小浜島に向けて走り出した。
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