二

「ねぇ、分かる?私、小浜島なんて聞いたことないしどこにも小浜島の文字がないんだけど、どうやって行けば良いの?」

大きな白いスーツケースと黒のリュックを背負ったボブの黒髪の女の子が、フェリー乗り場の電光掲示板を見上げていた。

彼女は確かに1人のはずなのに誰かに話しかけるように。

『あぁ。お前には見えてねぇのか。14時40分に小浜島。ちゃんと俺様には見えてる。問題ない』

どこからか、透き通るようなつい耳を傾けてしまうような美しい声が聞こえてきた。

「ふーん。なら、いいけど。それってどう言う仕組みなわけ?」

彼女は電光掲示板を見上げたまま、誰にともなくそう聞いた。

『さあ?知るか。ん、なもん!』

綺麗な声の割に乱暴な口調でそう吐き捨てた。

「ん?何、なんで怒ってるの?月?」

『お前には、関係ない。馴れ馴れしく俺様を呼び捨てにするな!』

「はいはい。それで、これどうやって乗ったら良いの?これを見せれば乗れるって言われたけど?」

彼女はリュックの前のポケットから何かを取り出しながら、再び姿の見えない誰かに向かってそう聞いた。

『なんだ、それ?お守りってやつか?つまりは通行証みたいなもんか?はっそれはまた面白い。そのお守りには力が込められているな。どうやら、人払いのようなもんか。目立たない為か。よほど、この島の事を知られたくねえようだな』

姿の見えない男はどこか嬉しそうに、それでいて面白くなさそうにそう呟いた。

「じゃあ、これを見せるだけで良いって事?お金はいらないの?」

『普通の人間には見えないようになってんだ。普通の窓口ではチケットも売ってねえだろうし、いらないんじゃねぇか』

「そっか。船が来たら私にも分かる?」

『どうだろうな。普通の人間には見えないかもしれねぇな。まっでも、俺様には見えんだから問題ないだろ』

「それもそうだね。じゃあ、時間までまだあるし座って待ってることにしようか」

そう言うと近くの椅子が沢山並んでいるところまで行き、真ん中の一番前の席に座った。

寮生活で必要になりそうなトイレットペーパーなども持って来ている為、荷物が多いので、リュックを膝の上に乗せてトイレットペーパーなどを入れたエコバッグを隣の席に置いてスーツケースは自分の前に置いた。


「お隣、良いですか?」

胸の辺りまである黒い髪に白いワンピースを着た、儚い雰囲気の女の子が彼女に向かって話しかけた。

「あっすいません。どうぞ」

彼女は慌てて隣の席に置いたエコバッグを自分の元に引き寄せてそう言った。

「ありがとうございます」

そう言うと少女は天使のように優しい笑顔でそうお礼を言って、彼女の席の隣の隣の端の席に座った。

少女も彼女と同じようにスーツケースを持ってリュックを背負っていた。

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