第一話 ニライカナイに集う

  一

「今日っすよね?九十九さん?」

金髪で派手な沖縄のシャツを着た男が隣に座るキチッとしたスーツを着こなした英国紳士っぽい男の人に向かってそう聞いた。

「ええ、そうですよ。14時40分のに乗りますからもうそろそろ石垣島を出る頃じゃないでしょうか」

シンプルなモノクロの腕時計を見て、九十九さんは答えた。

「あーじゃあ、30分くらいで着くっすかねー」

「そうですね。それで、あなたはどうしてそんなに楽しそうなのですか?涼平?」

九十九さんはシルバーのメガネの縁を持ち上げて、不思議そうな顔で涼平と呼ばれた男の顔を見た。

「そりゃあ、新しい人が入ってくるのはやっぱ、ワクワクするっしょっ!どんな人が来るのかなーって想像するだけで、興奮ものっすよ?」

涼平は少年の様に赤い瞳を輝かせ、子供の様に足をバタバタして興奮しているのを、九十九はスカイブルーの透き通る様な綺麗な瞳と同じくらい冷ややかな目で見つめていた。

「そうですか。まあ、それはあなたの勝手ですが。あまり、騒がないで頂けますか。周りに迷惑になりますから」

一呼吸置いた後、九十九はそう冷たく笑顔で言い放った。無表情よりその仮面の様な笑顔がより一層怖さを引き立てる。なぜなら、目が笑っていないから作り笑顔なのが分かってしまうのだ。

「すんません。つい、興奮して」

その仮面の様な笑顔を見た涼平がさっきまでの元気が嘘だったようにシュンとしてそう言った。

「いえいえ、別に良いんですよ。あなたのそういう無邪気なところ、嫌いじゃないですから」

そう言うと、今度は作り笑いじゃない本当に優しく菩薩の様な笑みを浮かべた。

その笑顔を見て涼平はさっきまで九十九の仮面様な笑顔を見て凍りついて居たのが溶けていく様に体の緊張を解き椅子に背を付け倒れ込んだ。

「それと、恩返しが出来るの嬉しいんすよ」

遠くを見るような目でそう涼平は呟いた。

「恩返し、ですか?」

いつものテンションとは違う涼平を見て九十九はつい涼平の顔をじっと見つめてしまっていた。

「そうっす。俺も1年前はあっち側だったっすからね。俺は本当にこの島に来られて救われたんです。だから、今度は俺が誰かの助けになりたいんすよね」

涼平は俯き加減で自分の手を見つめながら、どこか恥ずかしそうな照れ臭いような表情でそう話した。

「涼平がまさか、そんな風に考えていたとは意外でした。涼平の意外な一面を知れて、私は嬉しいです」

九十九は真っ直ぐに涼平を見つめ、恥ずかしげもなくそう言った。

珍しく、九十九が心の底から嬉しそうに笑っていた。

九十九の視線に耐えられず涼平は目を背け、顔を真っ赤にして俯いてしまった。

「それはそうと、ああいうのは辞めてくださいね。本当に迷惑になりますから」

九十九は話を切り替えて、改めて涼平にそう注意をした。

「もっもちろんです!」

それを聞いて涼平は改めて姿勢を正し、元気よくそう返事をした。

「いつも返事だけはいいんですがねぇ。まあ、いいです。それより、そろそろ到着される頃ですから、行きましょうか」

九十九は呆れながらも、我が子を見守る優しい顔になりそう言った。そして、気持ちを切り替えたように話を切り上げ涼平を促し、席を立った。

「りょーかいっす!」

涼平も九十九に続き席を元気よく立ち上がった。

そして、二人は自動ドアから外に出て歩き出した。

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