誰が為のニライカナイ

遥 かなた

プロローグ 予知夢

「そうか。なるほど。面白くなりそうだ」

白と青の着物を着た小学生くらいの男の子が姿に似合わない邪悪な笑顔を浮かべた。

それと同時にどこまでも無邪気に。

子供が虫で遊ぶ残虐性を含む笑顔で。


「はぁ。これはまた何か起こるな。海様がちゃんと俺たちにも話してくれたら大ごとになる前に対処出来るんだがな」

そう言って彼、海様と呼ばれた少年の事を別の場所から監視していた男が金色に染めた髪を掻きながらため息を付いた。

その声にはどこか諦めが滲んでいた。

今まで長く一緒に居てそれが良く分かっているのだろう。

「海様。もしかして、何か見られたのでは?」

それでも、男は少年の元に行きそう声を掛けた。

「ん?あぁ?いや、別に何も見てないが?」

少年は琉球畳と呼ばれる正方形の畳の上に敷いた布団から起き上がり、窓の側に移動して片膝を立てその上に肘を置き窓の外を眺めていた。

そして、窓の外の海を見つめたまま少年は面倒くさそうにそう返事をした。

「そう言って、以前この島にガシャドクロがやって来て大変な事になったじゃないっすか。もうあんな事は勘弁して欲しいんすよ」

「まあ、そんな事もあったな。でも、結局今はアイツもここで上手くやっているんだろ?なら、問題ないだろ。話は終わりだ。お前も早く帰れ。俺は一人で静かに考えたいことがあるんだ」

最後の方は最初の機嫌の良さが嘘のように機嫌が悪くなり、一瞬男の方を見ただけでまた真っ黒な海の方を見つめてそう言い放った。

「ハイハイ。分かりましたよ。じゃあ、俺は帰ります。でも、何かあっても誰も死んだりしないっすよね?」 

海様の今までとは違う雰囲気を感じとり不安になった金髪の男は表情を曇らせ、少年の顔を窺うように見つめ、そう聞いた。

「当たり前だろ。俺を誰だと思ってる?」

少年はそんな男の不安を感じ取り、男の方を振り返り男の目を真っ直ぐ見つめ力強い目でそう答えた。

口の端を上げニヤリと笑って。

絶対の自信からくる余裕の笑みで。

「海様、この島の神様」

少年のその笑顔を見て、安心した笑顔で、子供のお母さんに向ける絶対の信頼を向ける笑顔で男も少年の目を真っ直ぐ見つめてた。

「そうだ。この俺がいる限り誰も死なせたりなどするか。分かったら、さっさと行け」

少し嬉しそうに笑った後、神様は再び男に向かってそう言って追い払うように手で2回払うように振った。

「はーい」

男は聞き分けのいい子供のように返事をして部屋から出ていった。


「ったく。さて、どうしたものか。まぁ、良いか。今回は前回以上に厄介な事になりそうだな。

っふ。ハッハ。こりゃ、最高にオモシレーな。

良いぜ。受けて立とう!この海様が相手になってやる」

男が出て行った扉を見つめ呟いた後、天井を見上げて一瞬考えるように見つめていたがすぐに諦めたように正面を向いた。

だか、次の瞬間腹の底から楽しそうに笑い出した。

そして、誰にとも無くそう叫んだ。

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