第16話 疲れがたまりにくい

6月の2週目に入り、球速は127kmまで伸びてきた。

来週の土曜日には、地区予選の組み合わせ抽選会があり、いよいよ始まるという感じだ。


いや、始まってしまうと言った方がいいかもしれない。

最速127kmの速球とあまり動かないカットボールだけでは、とても打者を抑えられる気がしない。


もっと練習をしなくてはいけない、と思うものの、練習参加は午後からだ。

第2土曜日の今日は学校が休みで、午前は応急手当の講習会を受けるため、学校近くの病院に来ている。


入部早々、西野先輩に頼まれて(押し付けられて)いたが、基礎編と応用編で日にちが分けられており、今日は応用の方だ。


とは言っても、前回の内容の振り返り+α程度なので、そんなに難しくない。


なので、講習を受けながら、藤堂先生と話したことを振り返る。

分かったことは、こんな感じだ。


・この世界に来る前は、先生も長崎の同じ店におり、強い光で目が眩んだ後、気がついたら先生になっていた。

・先生がプレイしていたのは、リニューアル版のみで、やり込んではない。

・雑用イベントを知らなかったが、畠の能力が高いのは知っていたので、監督権限で練習試合に出場させた。

・球速の伸びが遅いのは、球速の評価が高かったので、調整されたらしい。

・畠のコンバートは、面白そうだったから。


球速については、計算すると必要なポイントが1.5倍になっているので、言われるとそうかという感じだ。


最後の面白そうというのは、納得いかないが、唯一、前の世界を知っている人だし、触れないでいる。

ちなみに、午後の練習が終わったら、先生の家へ行くつもりだ。



(ただ、課題は能力だけじゃない。球数という大きな問題がある。)


球数÷50で算出された数字の分だけ日数を空けないといけない。


1イニングの球数は、平均で15球と言われる。

9イニングだと合計で135球になり、横山先輩と2人で分けても、1人当たり70球弱を投げることになる。


現代では、怪我の防止などのため連戦にならないが、当時は甲子園ともなると、決勝までに3~4連戦する。


これの克服するには、実は西野先輩が絡む。


野手だと付き合っても、『怪我をしにくい』という能力を覚えるだけで、そこまでメリットはない。

一方で、投手は『疲れがたまりにくい』を覚えることができ、球数÷75の日数を空ければ良くなる。


端数は切り捨てで、75球までなら連投できるので、優勝する上では必須だ。

『疲れがたまりにくい』を覚える方法は他にもあるが、1年生で覚えるには、西野先輩と付き合う以外にない。


(でもなぁ。先生に悪いし、横山先輩にも身に付けてもらわなきゃいけない。それと、西野先輩と付き合うのが、そもそも面倒くさい。)


そう考えていたとき、あることを思い出す。


(たしか、西野先輩とキャッチボールで遊んでいる時に、体の使い方を指摘されて覚えるんだよな。)



その日の午後。


「横山先輩、キャッチボールしてもらえませんか?」


「え?ああ、いいけど‥。」


「西野先輩、うちらのキャッチボールで、気づいたことがあったら言ってもらえます?」


「‥‥‥あんた、何か変なこと企んでない?」

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