第15話 先生宅

「え?」


突然の質問に言葉が出てこない。

まさか、そんなことを聞かれるなんて思っていなかったし、そもそも、先生も元の世界の人ってことになる。


混乱しつつも、動揺を抑えてどうにか言葉を絞り出す。


「き、『球児の足跡』、ですよね?」


「やっぱり知ってるのね。ゲームでの畠君は、こんなに目立つことをしなかったし。」


「そんなに目立ってました?」

強くなれるよう、必死にやっていただけなので、目立っていたという自覚がない。


「ええ。入部早々、西野さんと遊んでたり、いきなりピッチングマシーンを寄贈したり。」


そう苦笑いしながら答える。


「西野先輩には、遊ばれていただけですよ。」


「そう?楽しそうにしてたと思うけど。」


ふふっと笑う。


「でも、同じ境遇の人がいてくれて良かった。来週の月曜日は、体育祭の振替で休みになるから、詳しく話をさせて。午前は練習があるけど、午後はオフになるから。」


「は、はぁ。」


「午後の2時半に、吉祥寺駅の南口の改札で待ち合わせでいい?」



今週で6月に入った。

球速は126キロまで出るようになっているが、まだまだだ。


ピッチングマシーンが導入されたので、朝練にも参加するようにしている。

レギュラー候補を考えると、野手としての能力も上げておいた方が良いと感じたからだ。


3年生の6人は強いのでレギュラー確定、2年生だと、次の主将になる三井 秀行みつい ひでゆき先輩のみ。

1年生は畠と新田だ。


残りの部員は、格段に能力が下がってくるので、この9人で勝ち進めるのがベストになってくる。

投手は横山先輩と畠が担い、入れ替わる形で外野手に入るのがいいだろう。


そう考えて、朝起きる時間を早めた。

筋トレをしてから、ピッチングマシーンで打撃練習をするためだ。

少し眠いが、そのうちに慣れてくるだろう。


そう考えながら、待合せ場所の駅前で佇む。

この時代だとスマホとかがないので時間を潰せず、ただ待つだけだ。


にしても、平日とはいえ、吉祥寺駅前は、それなりに人がいるな。

高校が私服の学校だから良いけど、学生服だったら先生と待ち合わせするのって、結構、人目につくんじゃないか?


そんなことを心配していると、先生が来た。


「待たせちゃってごめんね。」

「いえ、さっき着いたばかりですよ。」

「優しいのね。」


なんと言うか、初デートのカップルのような会話になっている気がする。


「それで、これから、どこへ向かうんです?」

「私の家。他の人がいるところで、この世界のこととかって話をしにくいでしょ?」


(え、先生の家?)


家で話すという理由は分かるけど、なんか緊張するな。


「それじゃあ、行きましょうか。」


そう言って歩きだすが、場所がどこにあるのか分からないので、先生の少し後をついていく。


駅の南口から真っ直ぐ進み、井の頭公園に入るが、そのまま進んでいく。

井の頭池の橋を渡り、さらに真っ直ぐ行った先の階段に登って公園を出る。


さらに歩いていくと、完全に閑静な住宅街になり、そこに目的地があった。

先生の家は、3階建のアパートで、井の頭公園も近くにある、良いところだと思う。

家の中に入ると、1Kのすっきりしたところだった。


「広いところじゃないんだけど。今、お茶を出すから、適当に座ってて。」


そう促され、玄関の近くに荷物を置くと、部屋の中に入る。

ソファーがあるわけではないので、ローテーブルの側に座らせてもらった。


しばらくすると、2人分の冷えた麦茶の入ったコップと羊羹の載った皿をお盆にのせて、先生がやって来た。


「大したものを用意できなかったんだけど。」

「いえいえ、むしろ、忙しいのにありがとうございます。」


そう答えた後、喉が渇いていたので、早速コップに手をのばす。

飲み始めたら止まらず、半分ほど飲んでしまった。

中身は良い大人なので、少し恥ずかしい。


そして、2人で羊羹を食べながら、この世界のことや元の世界について話し始める。


「先生は、ゲームをやったことがあるんですか?」


「ええ。といっても、始めたばかりだったんだけど。通勤時間に、スマホで遊んでいた感じ。」


「スマホアプリっていうことは、リニューアル版の方ですね。自分は、オリジナルの方をやっていたので。オリジナルとの違いとか分かりますか?」



話を聞いていくと、色々なことが分かってきた。

だが、ふと先生との距離が近くなっていることに気がつく。


先生は笑顔で話を続けていて、そのことを分かっていなそうだ。

自分の心拍数が急に上がっていくのを感じる。


前から綺麗だと思っていた女性が目の前におり、部屋で二人きりという状況が、さらに鼓動を早めていく。


ついには、自分を抑えられず、先生を押し倒してしまう。


さすがに抵抗をされる、と思ったが、何もない。

先生は、最初から受け入れつもりでいたのか、押し倒された姿のまま、こちらを見つめていた。


まるで、その後どうするのか、窺っているようにも見える。


そして、そのまま、最後までことを行った。

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