第14話 家庭訪問

「この度は高価な備品をご寄贈いだだき、ありがとうございます。」

藤堂先生が頭を下げると、父さんは恐縮する。

「いえいえ、野球部が活躍できるよう、少しでもお力になればと思っただけですので。」


リビングのダイニングテーブルには、父さんと母さんがキッチン側に並んで座り、自分と先生が日当たりの良い南側の椅子に並んで座る。

テーブルの上には、近所で有名なケーキ屋のショートケーキが載った皿とコーヒーが入ったマグカップが置かれて、さながら家庭訪問の様相だ。


「野球部の顧問がいらっしゃると聞いていましたけれど、こんなに若くて綺麗な方がなさっているとは思いませんでしたわ。」


「ありがとうございます。元々、野球に興味があったのと他に希望する方がおりませんでしたので、任せていただいてます。ただ、指導力のなさを痛感する毎日ですね。」


寄贈の話から野球部の話、学校の話、そして何気ない会話へと移っていく。

終始、温和な雰囲気ではあるが、何となく父さんが先生との会話を楽しんでいる感じがした。

それと、母さんがいつもと同じ笑顔のはずなのに、どこか怖さがあった。


「ご用意いただいたケーキがとても美味しかったので、ぜひ買って帰りたいです。峰行君は、場所は分かったりするの?」

「分かりますよ。案内しましょうか?」


気がつけば小一時間ほど話をしており、そろそろ家を出たがっている気がしたので、そう答える。

「あら、もうこんな時間。大したおもてなしもできませんで、すいません。」

「とんでもないです。この度は、本当にありがとうございました。」


そう言うと、先生と一緒に自宅を出る。

そのままケーキ屋へ向かうが、住宅街なので特に特徴もない道を二人で歩いていく。

お店まであと50メートルほど、というところまで来たときに、先生は急に立ち止まり、古いが大きな門を見つめる。


「随分と立派な門ね。お寺か何か?」

「ここは神社ですよ。門を潜った先には階段があって、登ると鳥居や賽銭箱があります。」

「ちょっと寄ってもみても良い?」

「もちろん、良いですよ。」


門を潜ると左側に手水舎があるので、そちらへ向かう。

先生は柄杓を持つと、左手から清めていく。

白くて綺麗な手と細長い指を濡らし、そのまま水が流れ落ちる。


次に右手を清めると、左手に水を注ぎ、口をすすいでいく。

そんな先生の横顔と口元に、自然と目線がいってしまうが、じろじろ見る訳にもいかず、自分も手水を行う。


その後、奥に50段ほどの階段があるので登り、その先の鳥居の前で一礼してから潜る。

その向こうには小さな拝殿と賽銭箱が設置されており、賽銭箱の前まで向かう。


先生は、鞄の中から財布を出すと、5円玉を取り出す。

賽銭箱にその5円玉を優しく入れて、鈴をならした。


姿勢を正してから二拝し、胸の高さで手を合わせると、右手の指先を少し下にずらして2回柏手する。

ずらした右手を戻し、拝殿を真っ直ぐ見た後、目をつぶってお祈りを始めた。


(ちゃんとした参拝だなぁ。元の世界ではいい年した大人だったけど、こんなに正しくはできない気がする。)


そう思いつつ、自分も真似ながらお祈りをする。


(甲子園優勝と、そして元の世界に戻れますように。)


お祈りを終え、最後に一拝する。

一連の作法を行ったら気持ちが落ち着き、頭の中がすっきりした気がする。


そうして、後ろを振り向くと、夕陽に照らされた町並みが広がっていた。

元々、この神社が急な坂の上にあることに加えて、さっき階段を登ったので、町全体を見下ろせるのだ。


「素敵な眺めね。」

「そうですね。」

そう受け答えしつつ先生の方を向くと、夕陽が当たった先生の横顔が見えた。


先生の横顔を見惚れていると、先生がこちらを振り向く。


(まずい。)


見とれていたのが、ばれたのかなと慌てる。


「ど、どうかしたんですか?」

「ねえ、畠君。どうしても1つ聞いておきたいことがあるんだけれど。」

「いいですけど、なんですか?」



「君は、この世界がゲームの中だってこと、知ってるでしょ?」

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