第12話 ピッチングマシーン

いつものごとく、放課後に自宅で勉強をしているが、今日の投球用保護ネットのことが頭から離れない。

思えば、畠が投手をやったり、雑用をしてないのに練習試合に出られたりと、ゲームの世界と違うことが多い。

現実とゲームの違いと言えばそれまでだが、今後をどう進めたら良いか悩ましい。


(ただ、備品の購入には関われなかったが、投球用保護ネットを買ったのは正解なんだよなぁ。)


というのも、野球で勝つには、が重要だからだ。

ヒットでもフォアボールでも、アウトにならずに出塁できる限りは、攻撃を続けることができ、負けることはない。


出塁するのに重要な能力は、バットコントロールなどボールを打撃技術と、ボール球を選球眼だ。

初期の練習メニューで可能な打撃練習は、素振りだけで、これは打撃技術がプラス1されるものの選球眼は変わらない。


つまり、練習で選球眼を上げるには、備品を揃えなくてはいけないのだが、その1つが投球用保護ネットだ。

ちなみに、プレーヤーが選球眼を高くしてバッターボックスに立つと、相手投手がボール球を投げた際、画面の端に「ボールだ!」と表示され教えてくれる。

選球眼が低いと、本当はストライクなのに表示がされたり、そもそも表示がされない場合がある。


投球用保護ネットがあると、打撃技術がプラス2、選球眼がプラス1される。

ただ、これでも十分ではない。

なぜなら、各能力が70に到達すると、練習で上がる能力がマイナス1されるからだ。

投球用保護ネットの場合、打撃技術はプラス1、選球眼はプラスマイナス0になる。

選球眼を練習で70より高くするには、さらに、ピッチングマシーンを揃える必要がある。


(けれど、次の予算会議は10月だから、夏の大会が終わってからになっちゃうよな。)


そう思ったところ、あることに気がつく。

(別に、部費で買わなくたっていいんじゃないか?)

そう思い立ち、下の階のリビングへ向かう。


「父さん、頼みがあるんだけど、ピッチングマシーンを買ってくれない?」

「えっ?、ピッチングマシーン?それっていくらするんだ?」

「3台欲しくて、合計で100万円くらいするかな。」

「いやいやいや、100万円なんて買えないよ!」


(まあ、そうだよね。やっぱり無理かな。)


そう諦めていたときに、後ろから母さんがやってくる。

「100万円くらい、いいんじゃない?」

「何を言ってるの?100万円だよ?不動産ローンを返済するために、毎月のお小遣いは5000円だってのに。」


(そんなに父さんの小遣いは少なかったのか…。というか、今までどうやって遣り繰りしてたの?)


「出費を減らすために、毎朝早く起きてお弁当をつくったり、この7年間、1度も飲み会に行ってない。挙げ句の果てには、職場の後輩から、お金を出すから参加してくれって言われてるんだよ?」


(まじか、衝撃の事実だわ。職場での人間関係、大丈夫なんだろうか。)


「あなたには言ってなかったんだけど、ローンは去年で払い終わってるの。年末調整は私が代わりに書いてたから、良く見てなかったのかもしれないけど。」


そう打ち明けられ、呆然とする父。


「住宅ローンの減税が6年間だから、6年で返そうと思って。さすがに無理かなぁっていう返済計画だったんだけど、あなたが頑張ってくれたから、無事に返済できたわ。」


「え、いや、え…。」

返済が終わっていたことを知らされ戸惑うものの、どうにか立ち直ったのか、口を開く。


「返済できたのは良かったけど、それならそうと言ってくれてもいいんじゃ…。返済が終わったならお小遣いだって増やして欲しかったし。」

「え、えーと…、それは…。えへ。」



こうして、ピッチングマシーンは、畠家からの寄贈ということで、野球部に導入された。

ついでに、畠の父のお小遣いが月に3万円に増えた。


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