第7話 投球練習
「ちょっと疲れてきたな。」
さっきの球でちょうど50球だ。
となると、スタミナは50と考えていいだろう。
この疲れというものだが、実はかなり大きな意味がある。
スタミナは1から最大100まであるが、この数はちょうど疲れが出始める球数と同じになっている。
疲れが出ると、そこからスタミナの値×15%の球数を投げるごとに、球速とコントロールが1%低下していく。
畠の場合、50球で疲れが出てくるので、7.5球、端数は切り捨て計算し、57球を投げると球速とコントロールが1%下がる。
先ほど投げた中で最も速かったのが120kmだったので、1.2km、端数切り捨てで、1km低下する。
ここまでの説明を聞くと、スタミナの評価が厳しいと感じるかもしれない。
これは、打者が打席を重ねるごとに球を見慣れてくるが、ゲームでは再現が難しいため、このような設定にしたと言われている。
また、登板間隔の設定も厳しい。
球数÷50で算出された数字の分だけ日数を空けないと、登板直後から疲れている状態になってしまうからだ。
このようにしたのは、ほぼ毎日登板したことで実働2年半でプロ野球人生を終えた、とある選手がゲーム製作のアドバイザーになっているから、という噂がある。
これに対して、製作会社は合っているとも間違っているとも言っていない。
だが、真相はともかく、これらの設定により、投手1人で勝ち抜くのはほぼ不可能になっている。
特に、甲子園の決勝は準決勝の翌日に行われるため、優勝するには最低2人、できれば3人ほしいところだ。
ちなみに、このゲームが発売された頃は、1度マウンドに上がったら最後まで投げ抜くことが美徳とされていた時代なので、この設定は当時としては異端とも言えるものだった。
「やっぱり、2番手投手が重要になってくるけど、畠がそうならないといけないよな。」
3年生の投手は、最高球速130、コントロールとスタミナがともに70と高いレベルにある。
野手も含めて3年生全員の能力は高いのだが、主人公が試合に出ないと初戦で負けてしまう。
なんでだよ、疑問を感じるが。
一方で2年生の能力は低く、投手は最高球速が110km、コントロールとスタミナがともに40なので、畠よりも弱く戦力としては厳しい。
1年間かけて育てれば戦力にはなるが、次の夏の大会には間に合わないだろう。
「とはいっても、自分も能力は高くないし、どうしたものかな。」
そう考えていると、西野先輩が、だるそうに聞いてくる。
「何をぶつぶつ独り言を言ってるの?それより、投球練習は終わりでいい?球速を測るのをやめるけど。」
「あっ、すいません。終わりでいいです。」
「ところでさ、ストレートしか投げなかったけど、変化球はどうするの?」
「そうなんですよね。けど、投手は初めてやるので、変化球なんて投げられないですよ。」
「それもそうよね。でも、左投手なんだし、スライダーとか覚えたら、右打者を詰まらせられるんじゃない。」
西野先輩って、こんなに野球の知識があったっけなと違和感を覚えつつも答える。
「スライダーなんて、簡単に投げられないですよ。それに、甘く入ったら痛打されますし。」
「とりあえず投げてみなよ。意外と曲がるかもよ。」
「じゃあ、試しに投げてみます。」
スライダーの握りは、人差し指と中指をボールの外側にずらして持ち、手首と指で回転をかけるように投げる。
投げ方は分かるものの、そんなに簡単ではない。
ゲームの世界に来る前は、小学校だけだが野球をやっていて、遊びで投げようとしたことがある。
だが、全然曲がらなかった。
今回も同じだろうと思い、期待せずに投げてみる。
が、やはり曲がらずに新田のミットに入る。
「やっぱり曲がらないですよ。」
「うーん、そっかぁ。新田くーん!さっきの球って曲がったりしてる?」
そう聞かれて、新田は立ち上がって答える。
「少しだけ曲がりましたよ。打者の手元近くの位置で。」
えっ、曲がったの?しかも、それって…、もしかしてカットボール?
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