幕間 帰りの車内
「イブキ、あーん」
「ん……あ、美味い」
「ほんと? よかった」
「こっちも美味しいよ。どーぞ」
「ありがと。……なるほど。こういう濃いめの味付けが好き?」
「そういえば、ちょっと濃いめだね。最近よく身体を動かすからかな? なんか身体に染みた」
「昔は薄味の方が好きだったものね。そっか、最近変わってきたんだ。……じゃあ今度からちょっと濃いめで作ろうかしら」
「んー、待って、悩ましい」
「ふふ、なにそれ?」
「いや、クシナのご飯はそのままが一番美味しい」
「……もう。褒めても美味しいご飯しか出てこないわよ」
「食の神じゃん」
「
「俗に言う『お稲荷さん』じゃん」
「……嫌な顔を思い出したわ」
「大好きじゃん」
「怒るわよ?」
「怒ってる時にしか聞かない台詞だ……」
「あーあ、怒っちゃった。もう今日のイブキのご飯は抜きでーす」
「ひいぃ、どうしたら御許しいただけるでしょうか? クシナ様」
「ふむ、そうだな。これからは毎日捧げ物をしてもらおう」
「ははー。して、捧げ物とはなんでしょうか?」
「え? ……えーと、何にしようかしら?」
「締まらない神様だ……」
「うるさいわね。そういうこと言うと一日一回
「どういうこと!? なんか落としまくるの!?」
「……確かに、よく考えれば
「よく考えなくても分かるくない??? あと
「むしろそっちが本め……まあ、その時はしかたなく、ほんとーに仕方なく付き合ってあげてもいいわ」
「落とさなきゃいいだけの話じゃないかなぁ?」
「そうね、
「落とすの俺で想定してたの!?」
「鈍感って便利ね」
「なんか恐ろしいこと言ってない? ヒナタちゃんに謝れ」
「謝るのは貴方よ、すかぽんたん」
「クシナの口から初めて聞く暴言」
「悪の幹部っぽいかなって」
「どっちかと言うと響きは可愛いけどね」
「すかぽんたん」
「かわいい」
「……そういうところじゃないかしら」
「急になに?」
「いえ、ずっと貴方の話しかしてないわよ」
「えー? ずっと俺の話してる? うちの幼馴染、俺のこと好きすぎ?」
「はい、明日の朝食も抜き。ついでにお昼も」
「死んじゃう! どうすれば許していただけますか? クシナちゃん様」
「そうねぇ、
「──あなた達よくもまあそんな恥ずかしい会話永遠に続けられますわね!?!?!?」
背後からの叫び声に頭を殴られ、一体何事かと振り返れば、
まるで激しい運動の後のように息を切らして、肩を上下させている。頬も少し色づいて見えた。
「どうしたの、ミラさ……ん。なにかあった?」
「何もなかった! 驚くべきことに『何もないということ』がありましたわ!」
「
うう〜、と頭を抱えて唸る、様子がおかしいミラ様。
やはり彼女にも彼女なりの葛藤があるらしい。うんうん、分かるよ。
「その分かってなさそうな目でこちらを見るのはやめなさい!」
しかし、ミラ様。
ここではやめた方がいい。
「──ミラ」
「ひっ」
隣の席から静謐な声音が名を呼んだだけでビビり散らかす誇り高き華族令嬢。
「静かになさい、ここは車内よ?」
そう、
公共の場では静かにするのが当然のマナーである。
クシナに冷たい目で見られて、ミラ様は借りてきた猫のように縮こまった。
「わ、わたくしが悪いんですの……?」
しょぼん、としながら彼女は席に着く。
それを見遣る冷ややかな視線は、瞬きと共に消え去った。
通路側に座る彼女は優しげに目尻を下げ、俺を見る。
「ね、ほら、そろそろよ」
「ん? ……ああ」
促されて車窓の外を見る。
そこに──、
「おー! 富士山!」
「あたしも見たい」
「いいよ、ほら、こっち」
くい、と引っ張って俺に
真っ青な空の下、根を張るように聳える富士の山。
二人で小さな窓に顔を寄せ、食い入るように眺めた。
「えぇ……? ひょっとしてこの方達、結婚してる……?」
背後の席でぶつぶつと呟いていたミラ様も、
────────────────
永 遠 に 書 け る 。
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