第1話 絶望
時間が空いてしまいましたがレビュー返しも少しずつ再開していきます。
@shooooonさん、素敵なレビューをありがとうございます。
お褒めに預かり光栄です😌 色んな好みの方に楽しんでいただけるよう、これからも頑張ってまいります〜!
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ある昼下がりのこと。
「幹部会に行くわよ」
課題をクシナに手伝ってもらって終わらせた俺がぐでーっとしていると、幼馴染殿はそう言った。
「幹部会……?」
「そう。読んで字の如く、六使徒が集まる会議よ」
「え、やばそう……」
というか、やばいに決まってる。
そもそもの話だが。
「俺、幹部じゃないけど行っていいの?」
それと〈
呼び出しとかじゃないよな……?
多分、それ自体は知られていないはずなんだけど……。
やや警戒混じりに問うと、
「あたしの……側近、だから。別に良いのよ」
クシナは少し恥ずかしげに、そう言った。
ほう、部下を一人くらいなら連れて行けるってことか。
要するに──、
「──いままで独りで行ってたの? かわいそうに……」
「あのねぇ……。他の連中も大抵は一人だし、別に旅行じゃないんだから一緒に行きたいなんて思わないわよ」
こめかみに手を添えながら、呆れたように言うクシナ。
……あの、「旅行なら一緒に行きたい」とか言わないでもらえます?
「それに、ここ最近は年に一回もなかったしね」
「ふーん」
いや会議の頻度なんてものはどうでもいいんだ。
今ここで、最も重要なことは、
「───その会議に、男は来ますか……?」
「……はあ?」
♦︎♢♦︎♢♦︎
真面目な話、俺には目下解決しなきゃいけない問題がある。
いやまあ、問題自体はたくさんある。
……推しとの距離感とかね。
だが、中でも一刻も早くクリアせねばならないのは──雨剣ルイとの確執。
これに尽きる。
ヒナタちゃんとの付き合いを続けていくと決めた以上、この問題からは逃げられない。
最推しはヒナタちゃんだが、ルイもまた推しである以上、手をあげる選択肢は絶無。
ならば、穏便かつ平和に対話での解決を図るしかない。
………うん。
はっきり言って、めちゃくちゃ無理そう。
そもそも俺には対人スキルが全く足りていないらしいということが、ついこの間ショッピングモールでのルイとの
だが、だからこそ、である。
その対人スキルを磨くためにも”友達”が必要なのだ。
数年間クシナとしか喋ってなかった俺の口が立派に回るようにしなければいけないのである。
まとめると、こうなるだろう。
──それはそれとして、普通に男友達がほしい……。
そう供述した俺をクシナが冷めた目で見下ろしてから、数時間後。
ごちゃごちゃ言ってないで一緒にいくわよ、と彼女に連れられてきたのは、例のごとく
珍しく昼間から「close」の看板が扉に掲げられている。
クシナはそれを平然と押し開き、俺も続いて中へ入った。
いつだったか店主のユイカさんと幹部〈
床にあった隠し扉を抜けて、地下への階段を降りながら、クシナが言った。
「ここからはフードを被っていくわ」
懐中時計のリューズを捻ってローブを羽織る彼女に続きながらも、疑問に思う。
「普段、正体は隠してるんだ。でも〈
「そんなわけないでしょ……、馬鹿なこと言わないで」
クシナに白けた目を向けられる。
「アレはそれなりに強かったし、なにより
──ここからは平の構成員の溜まり場ね。
そう言って暗い階段を抜けた先。
地下とは思えないほどの広大な空間が目の前に広がった。
「まじか……」
鉄筋コンクリートで作られたその場所は、高さも広さも結構なものだった。
窓がない閉塞感がなければ、地下空間だとはとても思えない。
広間の中心には飲食店らしき場所がある。
その佇まいや客層は、そこはかとなく治安が悪そう。
……酒場付きの冒険者ギルドとかってこんな感じなのかな。
「こういう地下の溜まり場は他にも何ヶ所かあるわ。一番大きいのはここなんだけどね」
「へえ……」
周りの壁面を見回すと、俺たちが通ってきたような通路が全方位に散らばっている。
「あれは地上の
「それもあるわね。逆にもう少し深い層に繋がっているのもあるわよ。──でも、私たちが行くのはこっち」
クシナは中央の酒場に向かって真っ直ぐに歩き出した。
のこのこ幼馴染の後に付いていくと、近づくにつれて先にいた客がこちらに目を向けはじめる。
「───! 〈
「えっ、〈
方々にいた構成員たちがスッと居住まいを正す。
どうやらクシナは随分と尊敬を集めているらしい。
ふふん、そうだろうとも。
彼女らの会話に後方彼氏面していると、クシナが一瞬足を止めた。
「あたし
アイツ、とは〈
が、そのボヤキに反応している余裕は俺にはなかった。
「ねえ、〈
「〈
「〈
「なんで男なんて部下にしてるんだろう……」
女性陣からものの見事に蔑みの目を向けられている……!
実際、彼女たちの疑心はもっともである。身から出た錆すぎる。
しかし、それだけではない。
「おい、アイツ」
「チッ」
男衆からも、やたら敵意のこもった視線を向けられている……!
これは〈
──いや、友達作るの無理じゃね?
しょぼんとしているとクシナが歩きながら言った。
「周りの目なんて気にしないでいいのよ。あたしが一緒にいるから」
「……へ?」
ああ、俺が周囲からの悪意に参ってると思ったのか。
「いや、別に気にしてないよ?」
「もうっ、強がらなくていいのに。……ちゃんと分かってるから」
「分かってないよ???」
確かに、いつもなら周りの目を気にするタイプだけども。
今日に限っては友達できなそうなショックの方がデカいからね?
というか、最近は人の目とか気にしないようになってきたし。
ちょうどこの前、ルイから逃げきった後から、なんだか吹っ切れた気がする。
クシナなら気づいてると思ったんだけど……。
ウチの幼馴染、普段は完璧なのに、たまにポンコツになるのは何なんだろうね?
「マスター、”下の部屋”」
溜まり場中央の出店らしき場所に着くと、クシナはカウンターの向こうに立つ長身の女性にそう言った。
手には懐から出した懐中時計をぶら下げている。
その許可証を見て、マスターと呼ばれた女性は頷いた。
そして何も言わずにカウンターの内側に俺たちを招き入れる。
足を踏み入れた瞬間──景色が一転した。
「ぅえっ!?」
「ふふ、良い反応」
クシナはフードを脱いで、クスクスと笑った。
俺もフードを取り払って、辺りを見回す。
いわゆる
円柱が立ち並ぶ廊下のど真ん中に俺たちは立っていた。
「これ、どうなってんの……?」
半ば呆然としながら、尋ねるとクシナは歩き出しながら話し始めた。
「この地下基地〈
「ほえー……」
きょろきょろしながら歩いていると──真横に赤い着物の美女がいた。
「はろー」
「うぉわっ!?!?!?」
思わず飛び退る俺。
それを見た美女──〈
「ぷふ──、あっははははは!!」
大爆笑しだした。
この頃になってようやく理解が追いつき始める。
「いや、ちょっとぉ! めちゃくちゃビビったじゃないですか!」
「くっ、くくく、わ、悪かった悪かった。……ぷくくっ」
クシナも気づいていたらしく、少し口角を上げておかしそうに俺を見ている。
恥ずかしさを誤魔化すように、二人を睨んだ。
「くふっ、まあ、そう拗ねるなって。慣れないところで緊張してるだろうと思ってよ」
「ほぐしてやろうって? 絶対ウソでしょ……」
ただ驚かせたいだけだよね、これ。
「いやあ、イイ表情も見れたし、行くかぁ」
「そうね」
上機嫌に進み出すクシナとミオンさん。
……やっぱりこの二人、実は仲が良いな?
そこからすぐに目的の場所には着いた。
──
そう呼ばれてた空間の中央には、円卓だけが置いてある。
ただそれだけの、とても質素な部屋だった。
「なぁんだ、
「当たり前でしょ、あの人たちが時間前に来るわけないじゃない」
「そりゃそうだ」
言葉を投げ合いながら、二人は席に着く。
円卓に用意されている椅子は、
「悪いけど、イブキはあたしの後ろに立ってて」
「むしろ座ってる方が緊張するし、有難いくらいなんだけど……」
この
それらの一つに目を向けた時だった。
灯りがない、吸い込まれてしまいそうな暗闇で、影が揺れた。
「────」
最初、漆黒が
しかしよく見れば、そうではない。
マットな黒のヒールに、足元までを隠す黒薔薇のあしらわれたドレス。
黒いドレスグローブで腕を覆い、黒の
ともすれば、それは貴婦人の影が一人踊りしているようにも見えた。
彼女を認めたクシナが口をひらく。
「ごきげんよう、──ゼナさん」
【六使徒】第二席〈
10年前、かつての副都心・新宿を一夜にして滅ぼした張本人だった。
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