入学式にキスをしたのは

亜璃逢

入学式にキスをしたのは


 梅から桃へ、そして桜へと季節の花が順に咲き誇り、期待に胸を膨らませて母と一緒に校門をくぐった高校の入学式。

 ちょっと家から離れた私立で、制服がかわいいからという理由だけで決めた学校だけど、自分の学力よりちょっと上の志望校だったから、合格通知が届いたときは、それを抱きしめて眠ってぐちゃぐちゃにしてしまった。

 

 憧れだったその制服に身を包み、私は軽やかな足取りで校舎へと向かう。


「ちょっと浮かれすぎじゃないの?」

「だって、やっとこの制服着られる日が来たんだよ。そりゃ嬉しいに決まってるでしょ~!」


 母にあきれられても、私の心は前向きだ。講堂に入る母と別れ、教室を目指す。先日の制服採寸日にクラス発表はされていたから、教室の場所もばっちり確認済み。


【1年3組】


 その札のある教室に入れば、教壇後ろのホワイトボードに座席の指定が書かれていた。

 一列ごとに男女別。それぞれ五十音順の出席番号で縦に並ぶようだ。


 既に小さなグループになっているのは、おそらく同中だったメンバーなのだろう。今日出会ったばかりとは思えないなじみ方だから。


 なんでも歴史的建造物だそうな洋館の講堂で入学式を終え、教室に戻ってきたら、まずは、先生の自己紹介。それから、クラスメートの自己紹介へとスケジュールは進んでいく。


「相沢斗真です。西中でバスケやってました。よろしくお願いします」

「一谷優香です。出身は南中で、コーラス部。でも、高校ではスポーツにチャレンジしたいと思っています」


 出席番号順、男女交互に進む自己紹介。次は私の番だ。

 カラーとパーマ以外はヘアスタイル自由なこの学校。気合い入れましたってのを出さない程度のゆるさを取り入れ、早起きして準備した「“ほどよく完璧”な私」は教卓から教室を見渡す。


「初めまして。七瀬那奈ですっ。隣の市の葵が丘中から来ました。このクラスには同じ中学の子がいないので、ちょっと心細いけど、仲良くしてもらえると嬉しいです。よろしくお願いしますっ♡」


 にっこり笑ったら、ちょうど目があった真ん中4列目の男子が赤くなって下を向いた。

 ふふ。あざとすぎたかな。いやでも最初が肝心だし! なんといっても休日に遊びに行けば数回に一度はスカウトされる私だもん。仕方ないよね。


 軽くお辞儀をして、微笑みつつ席に戻ろうとしたとき、3歩目で床がなかった。


 がっしゃーん!

 ゴン!!!!!


 激しい音とともに教卓前の子の机を派手に巻き込んで……


 私は床にキスをした。


 目に星が飛ぶのも初めて経験した。一瞬意識が飛んでいたようで、次に気づいたら担任が私を仰向けにして心配げにのぞき込みながら手当してくれていた。

 女子たちが差し出してくれたハンカチや男子が持っていたスポーツタオルを赤く染め、保健の先生が呼んでくれた救急車で運ばれた病院で、鼻骨骨折と診断された。

 明日、手術するそうだ。

 早ければ半月ただず家には帰れるかもしれないけれど、次に学校に行けるのは、GW明けになるかもしれない。


 というか、行く勇気があるかといわれれば……はっきりいって、無い。

 既にクラスではお笑い枠に分類されている気がすっごくする。

 

 ん~~~。もうこうなったら、せめてもの悪あがきで、唯一のコンプレックスだった鼻の形を整えてもらおう。

 できるかどうか?そんなの言ったもん勝ちかもしれないじゃん!

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