2話
開会式を待つ間、僕はパーカーのポケットに入れたままのチラシを取り出して広げ、レースの概要に目を通していた。
先ほども言った通り、このレースははなから無理ゲーである。そもそも普段の運転で90点以上取れること自体が稀なのだから。距離が伸びれば伸びるほど、高得点を狙うのは厳しくなる。高速道路で90点以上をとれるか? しかも首都高で。はっきり言って不可能だ。なにか細工をしてないかぎり。
そう、稀に豪華賞品をゲットしている奴がいるのだ。けれど、あれは多分ヤラセであると僕は睨んでいる。多分、運営側の親戚かなんかなのだろう。
もしくは、パチンコと一緒で機械に当たり外れがあるか、だ。
開会式が始まった。
「えー本日は皆さま第六回首都高速レースにご参加頂きまして誠にありがとうございます。」
無事アルコールと希死念慮検査を終えた僕たちはお利口さんに集まって真夜中に食パンマンの話を聞いている。なんだか不思議な光景だ。
「ここでもう一度ルールの説明をさせて頂きます。まず、開始は午前一時から。お好きなインターチェンジから参加して頂いて結構ですが、最後はここに戻ってきて車を返して下さいね。制限時間は設けていませんが、まあ朝の混み具合を考慮して、二周を限度としましょうか。注意事項があります。ここが一番大切ですからようく聞いてくださいね」
食パンマンは淡々と続けた。
「一つ、皆さんの乗車する車は時速170キロを越えると爆発する仕組みになっています。そのような非常識な輩はいないと信じておりますが、まあ念のため」
会場がざわめく。なんだって?
「世間様に迷惑がかかりますので、制限速度は守りましょうね。二つ、時速が20キロ以下になると車は爆発します」
淡々と話をする食パンマンには凄みがある。もしかしてこれはヤバいレースなんじゃないだろうか。僕に一抹の不安がよぎる。
「あのー爆発するってどういう意味ですか?」
「そういう意味です」
迷える子羊である僕たちを代表して尋ねてくれたのはチョさんだ。さすがだ。食パンマンがにべもなくそう答えると、チョさんは、では僕は結構ですと帰ってしまった。まともすぎる。見習いたい。
意外なことに食パンマンの説明を受けたあとでも辞退する人は少なかった。みんなクレイジーだなあ。
参加者の心にもやもやとした影を落とし、開会式は終わった。僕は我が家に帰るようにプリウスの元へ向かう。
まあなんでも構わない。僕はただドライブをしにきただけなのだから。頼むぞうーちゃん。ちなみにうーちゃんというのは僕の兎の名前である。
運転席に乗り込み、持ってきたウォークマンをBluetoothで接続して、音楽を選ぶ。アーティストの一覧を眺め、うーんと唸る。ロックはスピードを出しすぎてしまうし、クラッシックは寝てしまうかもしれないし、和楽器は世界観が違いすぎる。J-POPが一番いいだろう、そうしよう。
曲を選ぶと次は最寄りのインター。この辺りだとどこだろう。調べてみると、あった、走行距離約10分のところにインターチェンジがある。目的地をセットするとシートベルトを装着して発車する。時刻は0時55分だった。
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