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 数日後、八尋の元に知らない番号からの着信が掛かってきた。

 番号を見る限り海外からのようで、そういう所から掛かってくる予定にもなっていたので普通に応じる。


「もしもし」


『お、繋がった繋がった。数日ぶりだな八尋。俺だ。ユーリだ』


「分かってる。お前じゃなきゃ困るわ」


 こういう仕事をやっている身からしても、海外から突然電話が掛かってくれば少々怖いから。


「で、そっちはどうだ? 順調か?」


『なんとも言えねえ。前にも言ったけど、元々あの女の元に直行する予定だったんだ。今はアイツを探す為の大規模な術式を構築している所だ。これが終わらねえ限りなにも始まらねえ』


「そっか……大変だな」


 世界中のどこかにいる一個人を探そうなんて魔術を使う為に必要な技量は並大抵の物ではないだろう。

 それが大変ながらもできるという事は、大袈裟なのかもしれないけど烏丸に近いような実力を持っているのかもしれない。


(いや、あながち大袈裟って訳じゃねえか)


 世界共通の敵を追って単身で別の世界に送られてくるような人間が弱い訳がない。

 その世界で一番強い人間という可能性もある。

 できる事なら敵に回したくはない。


 と、そんな想像を少ししていたところでユーリが本題に入ってくる。


『で、そっちはどうなった? ちゃんと聞く事聞いたか?』


「ああ。事前に俺達で話していた通りだ。今の生活が気に入っているから、この先記憶戻った自分がどっか行こうとしたら止めてくれ、だってさ。つまり思い出したくないんだと思う」


『そっか……だったら俺は干渉するべきじゃねえな』


「そういう事になる。でもありがとな、忙しいのに態々電話してくれてさ」


『良いって気にすんな。その辺は本人の意思が一番尊重されないといけない事だろうからさ』


 そんな配慮をしてくれるユーリに対し、八尋は一拍空けてから言う。


「なあユーリ」


『どうした?』


「一応、レイアをお前に会わせられなくても、俺は勿論だし……あの時少し話に出ていた烏丸さんだって、頼めばきっと協力はしてくれると思うからさ。なんか会ったら遠慮せずに連絡しろよ。少なくとも俺に関しちゃ金とかは良いからな?」


『あはは……お前やっぱ良い奴だな。あれだけ綺麗な魂をしていただけある。きっとお前に何かあったら皆が損得勘定関係無く助けてくれるんだろうな』


「いや、そんな立派なもんじゃねえさ」


 四年前のあの日、皆が命を繋いでくれたなんてのは結果だけを見て言える話で、損得勘定無く助けてくれたのではなく、自分が巻き込んだ。

 そういう考えはレイアと出会ってから二年経過した今でも変わっていない。


 きっとこの先の人生で死ぬまで抱え続けるだろうし、抱え続けないといけない事だと思う。

 あの頃よりもそれを抱えた上で前を向けるようにはなったけど。


 ……まあそんなのはこっちの話で。


 八尋の身の上事情を知らないユーリには関係のない話だ。

 そんなユーリとの通話を切る前に言う。


「とにかくユーリ。死なないように頑張れよ。死にそうになったら俺で良ければ頼ってくれ」


『……分かった。死にそうになったらな。死なねえけど。俺はこれでも元の世界じゃ最強の勇者って呼ばれていたんだぜ』


「勇者……ね。これまでお前と話してきて一番異世界感あるな。普通にスマホみて通信端末って分かるような感じだったからさ。初じゃね? お前が異世界感ある言動したの」


『八尋は異世界の事なんだと思ってるんだよ……なに? 勇者ってそんなに異世界感あるか?』


 そんな事を多分苦笑いを浮かべながら言ったユーリは、最後に言う。


『まあ頑張ってみるよ。でもなんか合ったらその時は頼む。それじゃあレイアさんとお幸せに』


「お、おう……」


 そんな感じで、ユーリとの通話は終了する。


(……俺アイツと付き合ってると思われてる?)


 もしかしたら途中熱が入ってレイアの話をしていた時に、何かを察したのかもしれない。

 思いっきり間違っているけど……今はまだ。

 吊りあわない今の自分にとってはまだ、ただの願望でしか無いけれど。


 ……とにかく、異世界の自称勇者との通話は終わり。


 事は全く前進せず。

 前進させずに。それを放棄して。

 八尋は今まで通りの非日常を再び歩き始めた。

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