彼女のお仕事編⑤

「ーーねぇ、ジル。やっぱり健康な血が1番美味しいものなの?」

「そうとも言い難いな。人間に好き嫌いがあるように吸血鬼にも好き嫌いがある。若い女の血が良いと思われがちだが、若い女の血は案外ものなんだよ」

「あー、それはたぶん貧血かな?」

「太った人間のほうがのさ。まぁ、普通の人間の血はプレーンといった感じだな」

「サトミ、1回ジルに血を診てもらったら?参考になるんじゃない?」

「良い案だな、ポテト。サトミ、血を吸われるのは痛くない。むしろ気持ちいいくらいだ。試してみるのはどうだ?」


 ポテトとジルの提案を私は素直に頷けないでいた。

 だって、私の血は健康じゃないとわかっているのだ。だから、心配をかけたくないと咄嗟に思ってしまった。

 上手い言い訳が咄嗟に浮かぶわけもなく、私は俯いた。


「……我は心配はするが、サトミに太れとは言わぬぞ?」

「…………え……?」



 ーー心因性食欲不振症、いわゆる“拒食症”ですね。栄養士の卵ってことは、どんな病気かはご存知ですよね?

 ーー……はい。

 ーー自分の適正体重もわかりますよね?

 ーー……はい。

 ーー血液検査でも栄養失調と出ています。体重を増やしましょう。

 ーー……体重、増やしたくないです。

 ーーそれは何故ですか?

 ーー……この体系が良いと言ってくれる人がいるからです。だから、私はダイエットをやめません。



「血を飲まなくてもわかるさ。これだけ細いんだ。なんだろう?少しの間、共に過ごしたがサトミはあまり食事を摂らなかった。おそらく、食べたくないのだろう?」



 ーー……理実、ちょっと太ったね。俺、自己管理出来ない子嫌なんだよね。

 ーー……痩せるから、捨てないで。

 ーー来週までに2キロ落として?

 ーー……うん。わかった。



「……私はね、細くないと価値がなかったの」

「……そうか。だが、我はそうじゃない」

「……最初はお腹が空いて大変だった」

「……空腹は辛いな」

「……でもね、体重落ちたから彼に捨てられなかったの」


 さらりとジルに髪を撫でられる。


「……女性を笑顔に出来ない男は男はではないよ?愛しい人を思い出しているはずなのに、君は泣きそうな顔をしている。痩せていようが太っていようが、サトミはサトミだ。我はどんなサトミでも愛する自信があるぞ?」


 ぎゅっとジルは私を抱き締める。


「サクラとやらもそうだろう?無理強いはせぬが、あまり自分を苛めてやるな。食べることは悪いことではないぞ?」


 ジルのその言葉に胸がキュッとなる。


「……ありがとう、ジル」

「我は特別なことは言っておらんよ」


 ジルの言葉で頑なに凍った心がほんの少し溶けたような気がした。



 ーー……これ、食えよ。サト。

 ーー……ごめん、サク。私、ダイエット中だから甘いもの食べられないの。

 ーー……これ、豆腐餅だから。タンパク質摂らないと身体に悪いぞ?

 ーーん。ありがと、サク。







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彼女がいない異世界に転生しても何の意味もない〜彼女は栄養士知識で人々を救う〜 彩歌 @ayaka1016

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