彼女のお仕事編③

 ドキドキしながらマウスをクリックした。私が購入ボタンを押したのはフェロモン香水だった。


(高いけど、評価良いし、効果ありますように!)


 あの頃の私は彼に好かれたくて必死だった。

 女の子は50キロないのが普通。

 ムダ毛がなくてツルツルなのが普通。

 いつも化粧をして可愛いをキープするのが普通。

 それが当たり前だった。

 だから、私はアルバイトを頑張って努力をしていた。


 ーーサト、顔色が悪いよ。バイトしすぎじゃない?

 ーーお金がかかるから仕方ないんだよ。エステと脱毛って結構かかるんだ。化粧品も高いしね。

 ーー……それは彼のため?

 ーー……うん。可愛くないと、すぐ捨てられちゃうから。……3人目の子どもが出来たんだって。……奥さんともしてたんだって思うと、私、悔しくて……っ!

 ーー……捨てられちゃったら、いいのに。

 ーー……え?今、何て言ったの?声が小さくて聞こえなかった。もう1回言って?

 ーー……なんでもないよ。サトが笑えたらいいなって思っただけ。……あれ?ご飯もう終わり?

 ーーうん。ダイエットしてるんだ。

 ーー……今、何キロ?

 ーー女の子に体重聞いちゃダメだよ、サク。

 ーーじゃあ、聞き方変える。50キロないよね?


 私はサクの質問に沈黙で返す。


 ーー痩せ過ぎはダメだよ。無理も、ダメだよ。サトはサトらしくていいんだよ。


 サクは、優しかった。


 ☆


「ーー……て、起きて、サトミ」

「ん……?あ、ポテト。おはよ」

「おはよう、サトミ。大丈夫?うなされてたみたいだけど」

「ちょっと昔の夢をみてたんだ。私が香水買ったときのこと、覚えてる?」

「香水?あー、あのくさいやつ!」

「くさいって酷いなー。まぁ、私もちょっとキツかったけど効果はあったから。あの頃の夢を見てたんだ」


 私は目を閉じ、思いを馳せる。


「……サクは優しかったよね。今更気づいても遅いんだけどさ」

「遅くないよ。人助けをすれば会わせてくれるって、神様言ってたんだから頑張ろうよ!」

「……殺されてさ、彼と離れてさ、だんだんわかってきたんだよね。私の恋は“偽物”だったんだって」

「……うん」

「……私は“彼”じゃなきゃダメだったけど、彼は“私”じゃなくても良かったんだよ。誰でも、良かったんだよ」

「泣かないで、サトミ。ボクがいるよ?」


 私はポテトをぎゅっと抱き締める。


「……ねぇ、サトミ。やっと気づいた……?」

「……うん。私は自分に酔ってた。奥さんに対する優越感に浸ってた。“好き”だけじゃなかった。サクに向けられる好意も、彼も欲しいって、欲張りだった……!」


 ポテトが私の涙を舐めてくれる。


「……好きって、思っていいのかなぁ……?」

「ボクはいいと思うよ。だから、頑張ろ。サクラなら、ボクは文句言わないよ?さ、ジルのところに行こうよ」


 うんと私は笑い、仄かに熱を持ち始めた想いをぎゅっと胸に抱き締めた。







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