彼女のお仕事編①

 ーー理実の作ってくれるお弁当は美味しいなぁ。嫁、料理まずいんだよ。本当に毎日、理実の料理を食べたいよ。

 ーー作ってもらって文句を言うのは駄目だよ?

 ーー専業主婦なんだから、家事はしてもらわないと。料理教室に通わせてもみたんだけど、料理は苦手みたいでさ。だからさ、休みの日は自分で料理してるんだよ。俺、偉くない?

 ーー彰人さんも苦労してるんだね。


 彼はよく奥さんの愚痴を言い、私を褒めてくれていた。


 ーー早く理実と一緒になりたいよ。


 彼はそう言うと私をぎゅっと抱きしめていた。

 私も一緒になる日をただただ待っていた。


 ☆


「ーーサトミ、サトミっ!起きて!大丈夫?」

「ん……?ポテト、どうしたの……?」

「泣いてたから。サトミ、嫌な夢でも見たの?」

「え、泣いて……?本当だ。涙、出てるや。大丈夫だよ、昔の夢を見ていただけだから」

「あの男の夢?」


 あからさまに不機嫌なポテトの声に私は苦笑してしまう。


「……裏切られたと知っても、恨めないんだよね。大好きだったんだよ、本当に」

「そんな夢を見るくらいなら、ジルのことを受け入れたら良かったのに」

「あはは。さすがにそれはジルに失礼だよ」

「包容力ありそうだったから、ピッタリだと思うんだけどなぁ」

「まぁ、恋は理屈じゃないんだよ。さ、朝ごはんにしようか、ポテト」

「今日も頑張ろ、サトミ」

「うん。頑張ろう!」


 サクを好きになれていたら良かったんだろうなと、私はひとり考えていた。


 ☆


「サトちゃんのアドバイス通りに食事を気にしてみたら、足痛くなくなったよ」

「それはよかったです。ものすごく痛そうでしたから」


 このおじさんは通風だった。だから、それ用の食事指導してみたら効果てきめんだったらしい。


「サトちゃん、ふらふらしなくなったよ!」

「それは良かったです」

「あんな臭い内臓が、調理法ひとつで食べやすくなるなんてすごいわ」

「レバーは鉄の吸収率がいいですからね」


 この若い女性は貧血だった。焼いたレバーはダメだったらしいが、お酒で臭み抜きして下味をしっかりつけて揚げたレバーは食べられたようだ。


「うーん……やっぱり身体がだるいんだ」

「原因はなんでしょうね?力になれなくてごめんなさい」

「いやいや!サトミちゃんはよくしてくれてるよ!」


 不調を解決できるばかりではなかった。アドバイスをしてみても、原因がわからない人もいた。


 やっぱり、血液検査が欲しい。病気を判明させるためには手っ取り早いのだ。


 人助けのためなら、神様は力を貸してくれないだろうか。食品の知識をくれたときのように。


 原因さえわかれば、大抵は食事で解決できる。医食同源とはよく言ったものだ。


「他の方法も探しておきますね」


 ☆


 さて。神様とはどう接触したものか。

 私はうーんと唸っていた。


「サトミ、どうしたの?デザートのプリン食べないの?」

「ちょっと考え事をね。大丈夫、プリンはちゃんと食べるから」

「何を考えてるの?」

「血を見る能力が欲しいな、って」

「切る?」

「いや、切らない切らない。そういう物理的なのじゃなくて、病気を調べたいんだよね。で、それを神様にお願いしたいなって思ったんだけど、そもそも神様にどうお会いしたらいいのかわからなくてさ」

「ボク、神様の居場所知ってるよ。いつでも来なさいって教えてもらったんだ!」

「本当?じゃあ、案内してもらおうかな」

「まかせて!こっちだよ!」


 駆けていくポテトを私は追いかける。なかなか速い。


「ちょ……、速いってポテト!」

「ごめんごめん。背中、乗って!」

「え、私重いよ?大丈夫?」

「大丈夫!サトミは軽いって!」


 私はもふもふのポテトの背中に掴まる。


「じゃあ、行くね。しっかり掴まっててね!」


 ポテトは走り出した。


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