シルフの里編②

「あらら。ダメだったのね。残念」

「残念、じゃありません!もー、何を考えてるんだよ。これで手を出してたら、傷つくのは俺じゃなくてミミなんだよ⁉」


 珍しく俺は怒っていた。さすがのブリーゼもしゅんとするかと思っていたがそうでもない。ミミは薬の作用も落ち着いて何事もなかったかのように眠っている。


「何がダメなの?ミミはサクラのことが好きよ?」

「わかってるよ。俺もミミのことは好きだよ。でも、俺の“好き”とミミの“好き”は同じじゃない」

「例の“彼女”ね?あなたの記憶に居座る、謎の女」


 わかりやすくブリーゼの眉がしかめられる。


「おそらくあなたを“死”に誘った女。気に食わないわね」


 ブリーゼはチッと舌打ちまでする始末だ。可憐な外見に似つかわしくないことこの上ない。


「……大切に思ってたことだけはなんとなく覚えてるんだ。だから、そんなに邪険にしないでくれると助かる」

「……はぁ。はっきりさせたほうがいいのか、悪いのか悩むわね」


“彼女”の記憶を完全にシルフに消してもらうつもりなのはもちろんサクラには内緒である。


「……もうすぐ里に着くわ。男が珍しいからミミといて欲しいのもあったのだけれど。ぶっちゃけ、あなたモテるわよ?寝込みを襲われても知らないからね?」

「えー、こんな普通の男がなんでそんなにモテるのさ?」

「……サクラ、自分の姿を鏡で見たことある?」

「あるよ。どこにでもいる普通の顔じゃないか」

「あなた、相当美男子よ。女の子に見間違うほど、綺麗なんだもの。最初、人間じゃなくて精霊かと思ったくらいなんだから。アタシの努力も知らなくて羨ましいわ」


 ブリーゼの言葉に俺はぱちくりと瞬きをする。


「性格も優しく、頭も良い。引く手数多よ」


 ありがとうと俺は照れながらブリーゼに礼を述べていた。


 ☆


「にゃー。サクラ、美人さんだにゃー」

「……足がスースーする」

「そう?めちゃくちゃ似合っているわよ?」


 結局、己の身を守るために俺は女装していた。

 ブリーゼがえらく楽しそうだったのは気にしないことにしよう。


「あら、ブリーゼじゃない!帰って来てたの!どっちがブリーゼのお嫁さん?」

「ミミとサクラよ。ふふ、どっちでしょうね?とってもかわいいでしょう?」


 ん?お嫁さん?

 お嫁さんってどういうことだ?


「サクラ、どうかしたにゃ?」

「え、お、私たちがお嫁さんってどういうこと?」

「ブリーゼは男の子だからにゃ。だから、ミミとサクラがお嫁さんなんだにゃ」

「ブリーゼが男の子ぉ⁉嘘⁉」

「にゃ?サクラ、気づいてなかったのにゃ?」

「い、いや、どう見ても女の子!」

「あはは。驚いてる驚いてる」


 クスクスとブリーゼが笑う。


「改めてよろしくね、サクラ」


 

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