彼女の償い編⑥

 ーー戦うにしても、私何も武器を使えないよ?

 ーー適性を見てみよう。この世界はサトミのいた世界と違って戦わなければならない場合があるからな。

 ーーどうしたらいいかな?

 ーーこの水晶に手をかざしてくれ。


 サトミはジルに言われたとおりに水晶に手をかざした。


 ーー水属性の魔法使いか。魔力量もなかなか多い。しかも少しなら回復も使える、か。

 ーーちょ、ちょっと待って⁉魔法ってどうしたらいいの⁉

 ーーサトミは戦わなくていいから、落ち着いて。してほしいのはひとつだけだから。水を身体に纏って防御をする。これだけだ。

 ーー防御……?

 ーーそうだ。イメージして、やってみて?


 私はチャレンジする。

 大きな水の球が私を守る。


 ーー上手いな、サトミ。これで大丈夫だ。

 ーーポテトはどうすればいい?

 ーー心配は要らないよ。ボクも戦えるから。

 ーーサトミは我らが守るから案ずるな。

 ーーふたりともありがとう。


 ☆


 ぱちと私は目を覚ます。縛られているのか身体が動かない。視界も塞がれていて何も見えない。



 ーーこんだけの上物、売る前に味見しねぇ?傷物にしなきゃ問題ないだろ?

 ーーお前も相変わらずだな。ま、いいか。確かに滅多に見ない上物だしな。けど、傷は絶対につけるなよ?


 不穏な言葉に人が近づいてくる気配がする。

 目隠しを取られ、眩しさに目を閉じる。


「あらら。起きちゃったか。ま、無反応もつまんねーし、ちょうどいいか」


 猿ぐつわも外され、私は自由に話せるようになる。が、何も言わずに相手を睨みつけた。


「おー、怖い怖い」


 笑いながら手が近づいてくる。

 引き付けなければ。

 だって。

 私のことを守るとジルとポテトが言ってくれたから。


「ぎゃあああっ!手が、手がああ!」

「ーーサトミ、防御を!」

「う、うん!」


 男だけではなく、部屋全体が燃える。

 赤くではなく、蒼く炎が燃える。

 焼き尽くされて、そこには何も残らない。


「大丈夫だったか?待たせてしまってすまない」

「大丈夫だよ。生け贄にされた人たちは見つかった?」

「……何人かは手遅れだったが、大多数は助けられた」

 そっかと私は返事をし、ポテトをぎゅっと抱き締めた。


 ☆


「ーーここまでだ。いろいろとありがとう」

「え?ここでジルとお別れなの?」

「そうだ。人間と吸血鬼は相容れぬものだよ。村人たちが恩人を待っている。ポテトと行きなさい」

「ジルだって恩人じゃない!」

「いいや。恩人は君だよ」


 トンと私はジルに背中を押される。


「……また、会える?」

「君が望むなら」

「絶対、会いに行くから」

「待っているよ」


 私は村へと歩き出した。


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