彼女の償い編④

「ーーこれで全員、かな?」


 ふうと私はひと息ついて、汗を拭う。


「お疲れさま、サトミ。村人はこれで全員みたいだよ」


 達成感と疲労感が身体に広がっていく。


「サトミはここで待ってて」

「え?ポテト、どこか行くの?」

「においが動いた。たぶん犯人だ。捕まえてくる」

「待って、ポテト!私も行く!」

「ううん、サトミはここにいて。心配そうな顔をしないでよ、ボクなら大丈夫だから!」

「ポテト……っ!あ、もう行っちゃった」


 あっと言う間にポテトは走っていく。


「……お嬢さん。君が私たちを助けてくれたのかい……?」

「はい。水に毒が混入していました。解毒薬を作り、みなさんに飲ませたんです」

「なぜ毒だと?」

「ポテトーー私の相棒が気づいたんです」

「お嬢さんは薬師なのかい?」

「いえ、私は栄養士です」

「エイヨウシ?聞いたことのない職業だね。けれど、そのおかげで助かったんだ。ありがとう、お嬢さん」


 私は戸惑いながらお礼を言われていた。



「ーー痛っ!」

「なにすんだ、この犬め!」

「こいつらが犯人だよ、サトミ」

「わ!犬が喋った⁉」

「そんなこと今はどうでもいいだろ。さ、どういうことか説明してくれる?ボクに噛みつかれたくなかったらね?」

「ひっ!」


 犯人たちは観念し、ぽつりぽつりと事情を話し始めた。



 ☆



「……ポテトはどう思う?」

「嘘はついてないと思う」

「だよねぇ。にわかには信じられないけど」


 はぁと私は溜息をついた。

 あの毒は“殺すため”の毒ではなくて、“仮死状態にするため”の毒だった。つまり殺すつもりはなかったのである。

 毒を盛ったふたりは他の村の者で、自分の村の人間を犠牲にしたくないためこの村を狙ったのだった。

 その気持ちはわからなくはないが、根本的な解決にはならない。


「ーー私が挑んでも勝てると思う?」

「難しいだろうね。ただの女の子と犬だし。でも、サトミのことだからやるんでしょ?」

「もちろん!ねぇ、道案内してくれる?私を生け贄として捧げてくれたら、その後はうまくやるから」


 犯人たちは頷くしかできない。


 こうして私とポテトは生け贄として捧げられることとなった。



 ーーあんた、またケンカしたんだって?何があったの?

 ーーおとこのこ3人がサクをいじめてた。

 ーーだから、やつけちゃったの?

 ーーうん。サクはね、サトミがまもるんだ。



「ーーほう。若くて美しい。これを食べてしまうのは勿体ないな」


 くいと私の顎が男に持ち上げられる。


「お主、名前は?」

「人に名前を聞くのなら、先に名乗るのが常識じゃない?」


 どこまでも強気な私に男はくすりと笑う。


「それは失礼した。我が名はジル・ド・レイ。気軽にジルと呼んでくれ」

「私は木村理実。で、こっちがポテト。私たちがジルの生け贄になるわ。だから、あの村は解放してあげてほしいの」

「おやおや。酷い嘘をつかれたものだ。我は生け贄など求めておらんよ?最近いるのだよ。我の名を借り、生け贄と称して女、子どもをさらう輩がの」


 すっとジルが細身の剣を抜き、振り下ろす。



「……異なる世界から来た者よ。どうか我に話しを聞かせてくれまいか?」

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