この世界の歩き方編②

「ーーこれ、全部ミミが釣ったのか?」

「そうにゃ。ミミ、頑張ったんだにゃ」


 俺たちがミミの元に帰るとたくさんの魚があり、嬉しそうにミミが笑っていた。


「ミミ、すごいな」


 俺がミミの頭を撫でると、彼女の喉がゴロゴロと鳴る。それが完全に猫そのもので、可愛くて笑みが漏れた。


「ミミ、包丁ある?」

「あるけど、サクラには渡さないにゃ!」

「え、なんで?」

「前にナイフを渡したら、自分を切ったにゃ。だから、サクラには刃物を渡さないにゃー!」


 どうやらナイフで自分の身体のことを調べたあの件がミミにはトラウマになっているようだ。


「もうあんなことしないからお願いだよ、ミミ」

「本当の本当かにゃ?」

「本当だよ。ミミが釣ってきてくれた魚を調理したいんだ」

「調理にゃ?このまま焼くんじゃないにゃ?」

「サクラは料理が出来るのですか?」


 ぽかんとしているミミとブリーゼに俺は笑う。


「美味しい料理を作るから、期待して待ってて」


 ☆


「うまいにゃー。サクラは天才だにゃー」

「本当に美味しいわ。サクラは料理人なの?」

「料理はするけど料理人ではないよ。俺は栄養士」

「エイヨウシって何にゃ?」

「聞いたことのない職業ね」

「そうだなー、どう言えば伝わるかな。食べ物の専門家かな?病気の人のご飯を作ったりもするよ。まぁ、俺はその仕事になるための学校で先生をしていたんだけどね」


 思い出すとちらりと女の子の影が記憶を掠める。

 たぶん、この子が俺の封印された記憶の一部なのだろう。胸がチクリと痛んだ。


「サクラ、どうしたにゃ?」

「泣きそうな顔をしてるわよ?」

「……ちょっと昔を思い出してた」


 俺の意思とは関係なくボロボロと涙が溢れてくる。


「な、泣かないでにゃ、サクラ」

「無理はダメよ。ほら、深呼吸して?」


 優しいふたりに涙は勢いを増す。

 たぶん辛かったんだ、すごく。

 死のうとしたぐらいなんだから。


「……ふたりともありがとう。ふたりがいてくれて本当に良かった」

「サクラは大げさにゃ」

「そうよ。アタシたちはもう“仲間”でしょ?」

「あぁ。そうだな」


 こんなにふたりが優しくしてくれているのに胸がまだ痛い。

 忘れてしまった女の子は俺にとってどんな存在だったのだろう。

 記憶が戻ったら俺はどうなってしまうのだろう。


「ほら、サクラも食べるにゃ。食べると元気が出るにゃ」

「そうそう。食事は大事よ、サクラ」


 ふたりに言われ、俺も魚を口にする。


「うん。美味しい」


 俺のその言葉にふたりは笑った。









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