この世界の歩き方編①

「ーー本当にサクラは何も知らないのね。今までどうやって生きてきたのよ?」


 呆れているブリーゼの言葉に返す言葉がなくて、俺は笑ってごめんと誤魔化した。


「ま、知らないことを責めても仕方がないし、アタシがいろいろ教えてあげるわ」

「ありがとう。助かるよ、ブリーゼ」

「どこから説明したらいいかしら。魔法に驚いていたから、まずは魔法から説明しましょうか」


 ブリーゼの言葉に俺は頷いた。


「世界には四大精霊という存在がいるの。水の精霊ウンディーネ、火の精霊サラマンダー、風の精霊シルフ、地の精霊ノームという感じにね。ちなみにアタシはシルフ様の眷属よ。その存在たちが魔法に深く関わっているの」

「誰にでも魔法は使えるのか?」

「使えないわ。魔法を使うためには精霊様たちか、その眷属の“加護”が必要なの。稀に魔法持ちの人間も生まれるけれど、例外だと思ってもらって問題ないわ」

「じゃあ、さっき魔法が使えたのはブリーゼのおかげなのか?」

「そうよ。一時的にアタシが力を貸したの。まだサクラに“加護”を与えていないから、今は魔法を使えないんだけれどね」


 そこでブリーゼが表情を引き締める。


「ーー川井咲良かわいさくら、あなたには力が必要ですか?」

「あぁ、必要だ」

「力を正しく使い、決して力に溺れぬと誓えますか?」

「誓うよ、ブリーゼ」

「ならば、契約を」


 ふわりと風が俺の身体を包み込む。ブリーゼの身体が人間と同じくらいに大きくなり、取ったサクラの手の甲にキスを落とす。

 そこに紋章が浮かび上がる。


「ーー与えましょう、あなたに風の加護と祝福を」


 ☆


「……仕方ないけど、やっぱりひとりは退屈だにゃー」


 ミミはひとりで釣りをしていた。というのも、サクラとブリーゼが“加護”の契約をしているため暇だったのだ。


「サクラ、きっと魚だったら喜んでくれるにゃ。頑張って釣るんだにゃー」


 ミミはサクラの喜ぶ顔を想像して、笑う。

 クンッと釣り竿のうきが沈む。


「かかったにゃ!」


 ミミと魚の攻防が始まる。

 ひとりでいるのが当たり前だったはずなのに、サクラに出会ってからひとりでいるのが寂しくなってしまった。

 丁寧に手当てされた頬に触れる。ブリーゼもミミのことをかわいいと言い、優しくしてくれた。


「……妖精さんは何を食べるかにゃ?果物なら食べれるかにゃ?」


 釣りの帰りに少し山に立ち寄ろうとミミは決める。

 初めて出会った獣人に好意的な存在にミミは喜びを感じていた。


「やったにゃ!大物ゲットにゃ!」


 苦労はしたものの、魚との勝負はミミに軍配があがった。もう少し釣ろうとミミは尻尾を振りながら釣り竿を水面に垂らしていた。








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