新たな命編①

「……ここはどこだ……?」


 見慣れぬ天井を見つめ、俺は自分の置かれている状況を整理する。

 サトが刺されて死んだ。

 俺はそんな世界に耐えられなくて後を追った。

 死んだと思ったら神様という存在が出て来て、異世界に転生させると言った。

 せっかく死んだというのに。余計なお世話でしかない。

 ……ん?ちょっと待てよ。サトって誰だ?

 思い出そうとするが、もやがかかったようにおぼろげではっきりと思い出せない。


「ーー良かったにゃ!目が覚めたにゃ!」


 にゅっと覗き込んで来た女の子の頭には猫耳が生えていた。


「川に水をくみに行ってたら、倒れているのを見つけたんだにゃ。身体が冷え切ってて死んでしまうかと思ったけど、目が覚めて良かったにゃ」


 ふにゃふにゃと彼女は笑う。


「……そのまま死なせてくれたら良かったのに」

「!?そんなこと言っちゃダメにゃ!命は大切にしなきゃダメにゃーー!!」

「わっ!」


 彼女が飛びついてきて、勢い余ってベッドからふたり揃って床に落ちる。


「……何も知らないクセに、勝手なこと言ってんじゃねーよ」


 彼女を押しのけ、俺は外に飛び出した。


 ☆


「……っ!」


 ボロボロと涙が溢れて止まらない。

 よく分からないけど、辛い。

 死にたいという気持ちだけがただただ溢れてくる。


 トンと背中に重みがかかる。


「……お兄さんの名前はなんというのかにゃ?」

「……川井咲良かわいさくら。そっちは?」

「ミミだにゃ。猫の獣人にゃ。カワイサクラは人間なのかにゃ?」

「……人間だよ。名前、サクラでいいから」

「……わかったにゃ。サクラは獣人は嫌じゃないかにゃ?」

「……嫌じゃないと思う。初めて見たし。なぁ、ミミ。異世界転生って知ってるか?」

「……イセカイテンセイ?」

「はは、その反応じゃ知らないみたいだな。じゃあ、サトって名前に聞き覚えはある?」

「……ないにゃ。ごめんにゃ」


 心から悪そうに謝るミミに大丈夫だよと俺は笑った。


「夜が来るにゃ。早くミミの家に帰るにゃ」


 俺はミミに連れられ、彼女の家へと戻った。


 ☆


「……そんな理由があったんだにゃ。それなのに一方的に命を大切にしろって言ってごめんにゃ」


 ミミは耳と尻尾がペタンと垂れ、シュンとしている。

 俺は覚えている範囲のことをミミに話していた。


「……ちょっと仮説があるんだ。ナイフを貸してくれないか?出来るだけ切れ味のいいやつを」

「いいにゃ。はいって、にゃあああっ!?」


 ざっくりと腕を切る俺にミミが絶叫する。


「血が、血が、いっぱいでるにゃ!包帯、包帯にゃー!」

「ミミ、待って。傷口を見て」

「……傷口が光ってるにゃ」

「やっぱり、塞がったな。そうだと思った」

「どういう意味にゃ?」

「たぶん、俺は死なない身体になっている。また俺が自殺をしないように、だろうな」




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