プロローグ③
手術中のランプが点灯する。
サトは今、死と戦っている。
「ーー咲良くん!理実が刺されたって本当!?」
息を切らし、サトの両親が病院にかけつける。
「……本当です。サトは今、手術を受けてます」
「なんであの子が刺されなきゃいけないの?あの子は何も悪いことしてないじゃない!?」
その言葉に不倫のことを知らないのだと気づかされる。
「ーー木村理実さんのご両親でしょうか?」
「はい。刑事さん、娘を襲った犯人は捕まったんですか!?」
「殺人未遂の現行犯で逮捕しています。……少し様子を見ていたんですか、ご両親は娘さんが刺された理由をご存知ないようですね」
「……娘に刺される理由があるっていうんですか?」
怒りを滲ませ、おじさんは警察官を睨みつけている。
「……娘さんは不倫をしていました。娘さんを刺したのは不倫相手の奥さんです」
「理実が不倫?咲良くんと付き合っていたんじゃなかったのか?毎週泊まりに行っていたのは、咲良くんのところじゃなかったのか?」
視線が俺に向けられる。俺は首を横に振る。ずっと俺と会うというふうに言い訳にされていたことを知り、悲しみと怒りで目頭が熱くなる。
「まぁ、不倫をしていたからといって相手を刺していい理由にはなりませんが、理実さんがひとつの家庭を壊したのは事実です」
淡々と告げられる事実におじさんとおばさんは涙を流していた。
☆
手術中のランプが消え、がらがらとサトの乗ったストレッチャーが運ばれてくる。おじさんとおばさんは泣きながらサトに近づいた。
「手術は成功したんですか!?」
「……いえ。理実さんは手術中に亡くなりました。助けられず、申し訳ありません」
手術中になんだって?
亡くなったって言った?
そんなの嘘だろう?
信じられない。信じたくない。
「……先生、サトの手、温かいよ。死んだなんて、嘘だよ。眠っているみたいじゃないか」
パタパタと手の甲に涙が落ちる。
看護師さんが俺をサトから引き離す。
「残念ですが、理実さんはーー」
「聞きたくないっ!」
泣きながら俺は暴れていた。
☆
「……ん……?」
目の前に広がるのは見慣れた天井だった。
「……咲良、目が覚めたんだね。少しは落ち着いた?」
「……母さん。俺、病院にいたはずじゃ?」
「……暴れてるって連絡が来たんだよ。警察の人が止めてくれたんだって」
「……サトはどうなったの……?」
「今日がお通夜で、葬式は明日だって。目が覚めたら来てほしいって言ってたわ」
「……やっぱり、死んじゃったんだね、サト……」
ぎゅっと俺は小さな子どものように母さんに抱き締められた。頭を撫でられ、俺の涙腺は緩んでいた。
☆
「……サト、会いに来たよ」
棺桶に横たわるサトに俺は笑いかける。
「……バイバイ、サト」
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