第4話

それから僕とガストン爺さんは何ヵ月も試行錯誤を繰り返し、ようやく完成した。



「遂に完成したのーダクターよ」



「完成しましたのーガストン爺さんや」



そしてお互いに見つめ合い、力強く握手を交わした。



「で、爺さんや、何でこんなに時間がかかったのかのー?」



「ダクターよ。それはおぬしが途中から、本当は直列3気筒の4サイクルの方が効率が良いとか謎の発言をするからじゃ」



「いやいや、それでいきなり作り直そうとか言い出す爺さんもどうかと思うけど、しかも運動エネルギーを効率良く伝える為に作ってたギアの仕組みを、ギアとか散々作ったから新しいシステムを作ろう。とかぬかして金属ベルト式無段階調節ギアなんて作ろうとしだすし。その発想何処からきたんだよ」



「ふん。発想に関してはおぬしには言われたくないわい」



まあお互いに言い合ってはいるが、お互いに目は完成した魔道車に釘付けだ。



まあ前世の記憶の知識で言えばトラクターだ。何でトラクターにCVT付けてんの?逆に効率悪くない?って話だけど、この爺さん言うこと聞かないし。まあお金出したのは爺さんだから僕は知らんけど。



取り敢えず完成したから父さんの休ませてる畑で試運転する事にした。



「じゃあ起動させるよ。おっと。思ったより揺れるな。ガストン爺さんは落ちないように気をつけてね」



「そりゃ揺れるじゃろ。何しろ衝撃を吸収する機構は付けておらんしな。取り敢えず畑まではゆっくり頼むぞ」



「よし畑に到着。ここからは危ないから爺さんは降りて観察してて」



「うむ」



そしてブレードを回転させる。


おぉー。力強く回ってる。



このブレードをゆっくり下に下ろしてと。



うん。ちゃんと耕せてるな。それでは前進。



おぉー。スゲー。これが僕が作った魔道車の力か。知識だけで知ってるのと実際に見て体験するのは全く違うな。



「ダクターよ。次はどれくらい早く進めるか試すんじゃ」



よし、じゃあアクセル全開。



「あっ。ヤバい。速すぎるな。全開はないな」











「うむ。取り敢えず検証はこんなもんじゃろ」



うん。そうだろう。なにせ全然耕せてないからな。トラクターなのに。それなのにこの爺さんは何で嬉しそうにしてる?



「やはりパワーが足りずにブレードが上手く回らないようだの。進むスピードは凄いんじゃが」



そりゃそうだろう。作業用の機械は燃費や移動速度よりもパワーが大事だし。



「ガストン爺さん、これはもう畑を耕すよりも、乗り物として使う方がいいんじゃない?」



「そうじゃのう。ではこの畑を耕したらばらして、移動用の魔道車に作り直すかの」



あ、また歪な笑顔だ。これは色々企んでるな。



「また作り直すの?もうこれで最後にしてよ」



「ほっほっほっ」



結局トラクターは完成させず、移動用の魔道車に作り直された。



しかし、魔道車を完成させたのは良いが、問題が発覚してしまった。



「で、どうすんの爺さん。これ」



「いやはや。どうしたものかの」



「おいおい。今さら普通の魔道車は馬車より遅いとか、物凄く燃費が悪いから魔石が大量に必要とか。そんな事実を今さら伝えられても困るんだけど」



そうなのだ。本来魔道車は利便性がなく、貴族の見栄とプライドの為にあるような物なのだ。



それをとんでもない技術で全て解決した魔道車があるとしよう。



目の前に。



もちろんそれ相応の金はかかってる。大量の金属素材に大量のミスリルに、ある程度自動制御させるためにゴーレムコアまで搭載した魔道車が。



まぁ。欲しいよな。



僕も欲しい。そして自慢したい。



だがしかし、欲しい人は沢山いるだろう。



ただし、1台しかない。



それに僕も爺さんも大量になんて作りたくないわけだ。



ところが問題はそれだけではない。何とこの爺さん、この魔道車を自慢するために、王都に魔道車で乗り込んだと。まぁ気持ちは分からなくはない。



だがしかし、散々自慢するだけ自慢して、何の対策もせずに帰ってきたと。



まじでどうすんのこれ。



「おい爺さん」



「ほっほっほっ。まぁそう睨むでない。まずそもそも使ってる素材が貴重過ぎて量産なんて不可能なのだよ。だからこそこの魔道車は交渉のカードとして使えるのじゃよ」



まあそうだろうな。この世界では異様な見た目。前世の知識ではSUVって種類の車の見た目だ。タイヤもめちゃくちゃデカイ。



そりゃーさぞ目立つだろう。しかも信じられない位の高性能だしな。



「で、誰と交渉するの?誰に売っても揉める予感しかしないんだけど」



「まあそれはこの国の王様じゃな」



おいおいマジかよ。そもそも王様になんて会えないだろ。



「爺さんや、交渉もなにも、どうやって王様に会うんだよ。貴族ですら滅多に会えない人なんだろ?無理でしょ」



「まあその辺りは大丈夫じゃよ。でじゃ、王様の見栄とプライドの為にも高額で買い取ってもらう。そしてこの国の未来の為に、魔道車の製造の為の援助をしてもらい、量産可能な魔道車を作る施設を作らせるのじゃよ」



なるほど。それにより王様はこの世にひとつしかない高性能魔道車を所持し、性能は落ちるとは言え、他の貴族や商人も最新式の魔道車を手に入れる事が出来る。



そしてその魔道車の管理を国が行うと。



ただ、この話には2つの欠点がある。



「僕達に直接依頼が来たらどうするの?」



「そこは魔道車の製造開発施設に名前を置いておいて、国に守って貰うように交渉じゃの」



「なるほどね。その見返りに量産用の魔道車の設計図を渡すと。で、その設計図は誰が書くの?」



「もちろんおぬしじゃわい。魔道車への理解なら、もうおぬしに敵う者はおらんじゃろ」



やっぱりそう来たか。



「じゃあガストン爺さんも手伝ってね。素材の価値とか、量産用に向いた素材とか、僕には分からない事が多いし」



「それはもちろんじゃ」



よし。言質は取った。元はと言えば全部この爺さんのせいだからな。思う存分こき使ってやろう。



「はぁぁぁぁぁ。ほんとは空飛ぶ魔道具作ろうと思ってたのにな」



「何?空飛ぶ魔道具じゃと?何だねそれは?まさかおぬし、そんな面白そうな事をわしに黙って独りで作ろうとでもしておるのか?」



おいおい。小さな声でボソっと呟いた言葉を正確に聞き取りやがったよ。この爺さん。どんだけ地獄耳なんだよ。



「そんな訳ないでしょ。とにかく今は量産化用の設計図と、爺さんはまずは交渉だろ?さっさと王様の所に行って交渉して来なよ」



「おぬし段々とわしに対しての言葉使いが酷くなっておらぬか?」



「誰のせいだよ。だ・れ・の」



「まあよい。わしならどんな素材でも入手出来るのじゃ。分かっておろう?何か作る時はまずわしに相談するんじゃぞ?よいな?必ずじゃぞ?絶対じゃぞ?」



興奮し過ぎて唾液まで飛んでくるんだけど。



「分かったから早く準備しろって」



この爺さん、素材を人質に僕の作る珍しい魔道具の開発に参加したいんだろう。別に悪い事ではない。実際お世話になってるし。



まあ興味のある物を作りたいだけなんだろうけどさ、ああしたい、こうしたい、あれは駄目、これは駄目ってめちゃくちゃワガママなんだよな。



技術って言うのは、普通はゆっくりと段階を踏んで発展させて行く物なのに、この爺さんは毎回3段飛ばし位に発展させようとするから、設計するだけでももの凄い時間がかかる。



しかも作ったことのない各機構の試験では、絶対に何処かで問題が起きる。それを解決するために、更に設計し直さなくてはいけなくなる。



近道なのか遠回りなのか、段々分からなくなってくるよ。



ああ。僕はただ空飛ぶ魔道具を作りたかっただけなのに。



あ、そう言えば前に爺さんが空飛ぶ魔道具の実験があったとか話してたな。今度聞いてみよう。


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