第5話

あれから1年が過ぎ、僕は10歳になった。



あの後爺さんは事前に話してた通りに王様と交渉し、上手く纏まった。



そこから僕と爺さんは、暫くは王都で設計開発する事になり、何とか両親を説得していざ王都へ。



そこからは試行錯誤の日々だった。



ようやく魔道車の設計も完成って所に、国から新たな魔道鉄道の開発とやらの打診があった。



そんなん受けるわけないだろ。



まあただ突っぱねるって事は出来ないので、取り敢えず現行の魔道鉄道の設計図と、新しい魔道鉄道の開発案とやらの資料を確認した。



この魔道鉄道の設計図は国の最重要極秘資料らしく、王城まで向かうことに。



で、資料を見て思った。



無理です。



そもそもこの魔道鉄道は国の威信をかけて開発された国家プロジェクトだ。国中の高名な魔道具職人を集め、国の予算から大量の資金を投入して膨大な時間と実験の末に作られた魔道鉄道だ。



それを改良したとしても、必ず違う場所で問題が発生する。



しかも電車とか僕の専門外だ。蒸気機関位しか知らないし。



と言うことで、何故改良出来ないかを詳しく何ページにもして王城に送り付けた。



これでようやく村に帰れると思ったが、王様から王様専用魔道車の専属魔道具師にならないか?との打診が来た。



どうやら王様は僕や爺さんを王都に繋ぎ止めておきたいようだ。



まあ気持ちは分かるが、王都は人が多過ぎて僕には合わない。それに両親との約束もあるし。だから村に帰る代わりに、整備に関しては魔道車製造施設で働いている人にお願いして、故障等対応出来ない時には僕と爺さんが担当する事にした。



爺さん凄いよ。王様相手に全く譲らないその姿勢。この爺さん何者なんだ?何か誰に聞いても皆教えてくれないし。



何か皆爺さんの事聞こうとすると挙動不審になるんだが?いったい何したの?この爺さん。











そして1年振りに故郷に帰ってくる事が出来た。



この村の名前はボーダー村。村は辺境にあって、自然豊かな土地だ。何故か近くに荒野もある。



森を切り開いて作られた開拓村で近くには川が流れていて、広大な畑が続いている。



広大な森に入ると野生の獣等が生息しているが、森の恵みが豊富な為、滅多に森から出てくる事はない。



更に奥に進むとそこはモンスターのテリトリー。言わば危険地帯だ。



危険地帯の西側には壁と見紛う程の切り立った崖がそびえ立つ。誰もその崖を登れないので、頂上がどうなっているのかは誰も分からない。



そんな僕達の村には大体200人位の人が住んでいる。辺境の村にしてはかなり多い方らしい。



この周辺は元々森の恵みが豊富だったらしく、農業に適した土地で、国の人口を支える為の農業生産地域にするために開拓されたらしい。



ただこれ以上の開拓は不可能だった。昔更に開拓を進めようとしたら、森から獣やモンスターが餌を求めて畑を荒らしたり、人を襲ったりしたそうだ。



そんな事件があったため、これ以上の開拓は諦めて開墾した場所に植林をしたり、獣が好む農作物の一部を森に撒いたりして乗り切ったそうだ。



それからこの村は安定した食料生産地域として現状を維持している。



「ただいまー。父さん、母さん」



そう言いながら、家の扉を開いた。



「お帰りダクター。よく頑張ったわね。偉いわ」



すると母さんが優しく抱き締めてくれた。何だかやっと帰って来たってきがするよ。



「お帰りダクター。王都でも有名人になったそうじゃないか。だがな、ダクター。人間は食べ物がないと生きていけない。だから食べ物を作っている農家ってのは凄いんだぞ」



「分かってるよ父さん。でもそう言う話しは後でしてよ。せっかく帰ってきたんだから」



「はっはっはっ。そうだな。とにかく無事に帰ってきたんだ。お祝いだ。お祝い」



それから久しぶりに家族水入らずの食事がおわり、今日は両親と一緒に寝る事になった。



急に騒がしい1人息子が居なくなって、寂しかったんだろう。本当は恥ずかしいから嫌だったんだけど、今日は素直に一緒に就寝する事にした。



「そう言えば、父さん、母さん、今度王都の教会から司祭様が、この村に祝福を授けに来てくれるんだってさ。しかも全員タダで」



「それは大事件じゃないか。村長にはもう話したのか?」



「帰って来たときに、挨拶しに行った時に話したよ。村長から皆に伝えるってさ。これは王様からのご褒美なんだって」



「そうか。村の皆も喜ぶだろう」



教会が授ける祝福とは、何か特別な何かが貰える訳ではない。



ただその人に合った進むべき道を示してくれる儀式だ。



例えば、貴方は植物に愛されています。農業などをすれば、より良い結果が訪れるでしょう。とか。



まあ職業の適性診断みたいなやつだ。その人の才能を教えてくれる儀式。まぁ別にそのお告げ通りの職業にならなくても成功した人は沢山いる。



でもひとつの指針にはなるだろう。



「二人とも。話しはそれぐらいにして早く寝なさい。いつまで経っても眠れないわよ」



「そうだな。お休みダクター」



「お休みダクター」



「お休み。父さん、母さん」





ーーーーーーーーーーーーー









「ダクター。何か良いもん見つかったか?」



「特には。この森なら何か良い食材とか見つかるかとおもったんだけどな」



「まあそう簡単には上手く行かないって事だな。そろそろ戻るか?」



「じゃあ後少し進んで、何もなかったら戻ろう。いつもありがとう。グリン」



「いいってことよ。森の中は旨い食材もあるしな。これだけあれば妹も喜ぶだろ」



そう言いながら鞄を叩くグリン。



グリンはホント良いやつだ。頭は良くないけど、仲間思いだ。



そして、ただ強くなりたいと言う脳筋タイプでもある。前に強くなりたいとか言うから、僕の記憶の中にある格闘術ってやつを試しに教えてあげた。



どうせ僕には出来ないし、この記憶が何なのかもよく分からない。ただ何となく教えてみた。



するとグリンは喜んで技術を習得し、7歳にして大人顔負けの戦闘野郎になってしまった。



僕は悪くない。こうなる運命だったんだ。



暫く進むと、そこには知らないはずの知っている果物の樹が生えていた。



桃の樹だ。



初めて見るのに何故か知っている。僕にはよくある事だ。



桃をひとつ取って食べてみる。



「凄く甘い。中から甘いものが溢れてくる」



「うめーーー。おいダクター。俺達スゲー物発見したんじゃないか?これでまた妹にも自慢出来るぜ」



こいつホント妹の事好きだよな。それにしても、この桃本当に美味しい。



美味しすぎて元気になって、力が溢れてくるようだ。フハハハハハ。



「ダクター。何か近づいてくるぞ」



僕は一瞬で冷静になれた。



この森の獣は滅多に人に近づいてこない。餌が豊富にあるために、わざわざ普段見かけない怪しい人間なんかには近づかないのだ。



だけど、唯一人間に襲いかかってくるやつがいる。



モンスターだ。



僕達はゆっくりと、足音を立てないように後ずさっていく。



すると少し遠くの方から人影らしきものが現れた。



あれはゴブリンだ。地域によっては小鬼とも呼ばれているらしい。



僕は初めて見るモンスターに恐怖し、足が縺れて転んでしまった。



するとグリンが直ぐに助け起こしてくれた。



「走れダクター」



僕とグリンは走り出した。とにかく離れないと。



きっとさっきの場所はゴブリンの狩り場なんだ。



ゴブリンは1匹見つけたら10匹はいると思えって言われている。



僕達は気がついたら反り立つ壁の前まで来ていた。話には聞いていたけど、目の前でみるととてつもない高さだ。



しかも上に行くとこちら側に反り返っている。



そりゃ登るのなんて不可能だ。



いや、今はそれどころじゃない。とにかく逃げないと。



「ダクター伏せろ」



僕は咄嗟にその場でかがもうとしたが、勢い余って転んでしまった。



咄嗟に振り返ると、さっきまで僕が立っていた所に棍棒が通り過ぎた。



もの凄い風切り音だった。



あんなものくらったら死んでしまう。



すると突然新しい記憶が思い出される。



いつも謎の記憶に出てくる男の最後の瞬間だった。



それを思い出した瞬間、男の感情が流れこんできた。



すると僕を支配していた恐怖の感情は消え去っていた。



僕は直ぐに立ち上がり駆け出した。



壁に穴が空いている場所があり、グリンがそこに入ったので僕もそれに続いた。



すると入り口近くでグリンが立ち止まっていた。



あれ?これ不味くないか?



事実上行き止まりの袋小路だ。



その狭い通路の途中でグリンが立ち止まっている。



まさか?



こいつここで戦うのか?



武器もない状態で、しかも子供のグリンが。



無理だ。



「グリン、無茶はよせ、洞窟が広ければ振り切れるかもしれないだろ?」



「ダクター。今俺は怒っているんだ。俺の大事な親友をこいつに殺されそうになったんだ。こいつはここで仕留める」



僕はグリンが本気で怒ってる所を初めて見た。後ろから見ているだけでも、少し恐い位だ。



すると突然全身に悪寒が走り、鳥肌がたった。



グリンの全身にうっすらと金色に見えるオーラみたいなのが見える。



いつだったか。誰かから聞いたことがある。錬気。正確には錬成闘気だったかな。



身体能力に長けた一部の者だけが発現する魔法とは違う現象。



身体能力を大幅に強化し、刃すら弾き返す頑丈さを手に入れる特別な力。



近づいてきたゴブリン達を殴り倒すグリン。



その光景はとても人間には見えなかった。





ーーーーーーーーーーーーー





「おはよう。ダクター。うなされてたみたいだけど、大丈夫?」



「うん。大丈夫だよ」



夢か。また懐かしい夢を見た。



あの後、あの時見つけた洞窟を俺達の秘密基地にした。俺たちがゴブリンから勝ち取った場所だ。



久しぶりにあそこに行くか。


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