第2話

コンコンコン。



「ガストン爺さん、鍵開いてるから入るよー」



「おお。ダクターか。入れ。入れ」



ガストン爺さんの家は広い。皆に勉強を教える為の部屋が広いからだ。まあ他にも理由はあるけどね。


中に入るとガストン爺さんとグリンが居た。そう言えば、さっきエリンがグリンに、ガストン爺さんの家に行けとか言ってたな。なるほど。



「どうしたダクター。おぬしは前に基本は全て習い終わったじゃろう」



「ああ。今日は別件だよ。父さんが魔道具を手に入れたらしいんだけど、整備とか手入れの仕方が分からないから見て欲しいってさ。ついでに僕も見学させて欲しいし」



「なるほどのう。分かったわい。じゃあこ奴に計算を教え終わったら向かおうかのう。昼飯終わったら向かうと伝えといてくれ」



「分かった。お願いね」



そう言って去ろうとすると呼び止められた。



「所でダクター、その魔道具は何って名前の魔道具かの?」



「ああ。そっか。忘れてた。耕運機って魔道具で、畑を耕すやつって聞いたよ」



「ほーう。また珍しい物を手に入れたもんじゃのー。まぁ仕組みは分かるから大丈夫じゃろう」



「宜しくね。じゃあ僕は行くから」



ちらっとグリンを見ると、物凄く助けて欲しそうな顔で僕を見つめている。



すまぬ。グリン。俺達はお前を置いて先へ行く。



とか下らない事を考えながら家に戻った。



母さんにガストン爺さんが昼飯後に来る事を伝えて、ガストン爺さんから借りた本を読む事にした。



ガストン爺さんは昔、王都で働いてたらしい。そこそこ偉い人だったらしいが、引退しても執拗に頼み事をしてくる人が後を絶たず、田舎に引っ越す事にしたらしい。



まあそう言う訳でこんな田舎にも関わらず、魔道具を扱える人が住むことになったと。



ただこんな田舎では魔道具の需要は無いので、村の人達や、子供達に勉強を教える仕事をしているのだとか。



もちろんこんな田舎に本屋なんて無いので、本が読みたいならガストン爺さんから借りるしかない。



「しかし凄いよな。魔道具って」



今僕が読んでいるのは魔道具開発入門書って本だ。名前の通り、魔道具開発の為の基本的な知識が書かれた本だ。



この魔道具の仕組みと、僕の前世の記憶にある科学知識には共通点が多い。



ただ、決定的に違う部分がある。それがエネルギーだ。



科学では物を動かす時に必要なエネルギーは、電気だったり、液体燃料だったり、気体燃料だったり、用途に合わせた様々なエネルギーが必要だ。



だが魔道具に必要なエネルギーはただひとつ。それが魔力だ。



魔力をエネルギーとして使い、刻印魔法によって様々な現象を生み出すことが出来る。まさに夢の技術だ。



そして今日は遠慮無しに魔道具に触れる事が出来る。楽しみだな。



しかもこの魔道具は父さんの物だから、遠慮無しにいじれる。



普段は魔道具なんて高級品は、こんな田舎では触るどころか目にする事もない。



まあガストン爺さんの家は例外として。



とりあえず、こんなチャンスは滅多にない。しかも何かあって壊しても、ガストン爺さんが直してくれると言うおまけ付きだ。



わくわくが止まらないぜ。




父さんには悪いが壊す気で触らせてもらおう。







そして昼飯を食べ終わり、ガストン爺さんと一緒に農具小屋に来た。早速分解しながら詳しい話を聞こうじゃないか。


のう。ガストン爺さんや。



「ダクターよ。この魔道具は今までおぬしに教えてきた魔道具とは一味違うぞ。単純な魔道具は極端な話、現象を引き起こす刻印さえ知っていれば簡単につくる事が出来る。だがこいつは違う。刻印意外の仕組みが複雑に出来ていて、理解するのに時間がかかるじゃろう」



ガストン爺さんが段々と早口になってきている。まあ今僕は魔道具を触るのに忙しいので。


「なるほど。この回転するブレードがここに繋がっていて、ここがこうなってこうだからここに動力があると」



「そうじゃ。そうじゃ。よく理解出来たのう。これは回転運動を利用した仕組みなんじゃ。そしてその回転運動を生み出しているのがこれじゃ」



「ほうほう」



「そしてこの回転運動を生み出しているこれを動力炉と言う。ここに筒状の穴があり、この中で刻印が刻まれた棒が上下運動する事により回転運動を生み出している。そして上下運動は筒の中で刻印魔法のボムが発動することで動き続けているんじゃよ。ちょっとおぬしには難しかったかのう」



なるほど。つまり、前世の記憶の中にあったエンジンと同じ仕組みか。



しかもエンジンの中でもとてもシンプルな仕組みで、恐らく2サイクルの1気筒エンジンって所か。



「ガストン爺さん、多分だけど、これって中のピストンが2回上下で一回爆発って所かな?」



「なに?おぬしこれの仕組みが分かるのか?こんな複雑な仕組みは教えておらんかったはずじゃが」



「見ていたら何となくね。頭の中でイメージが湧いて来たんだよ。それでさ、思ったんだけど、回転運動が出来るなら、馬の代わりに車輪を動かす事も出来るんじゃない?」



「ほっほっほっ。本当におぬしは凄いの。確かにそれも可能じゃ。そしてこの動力炉を使って動く馬車の事を魔道車と呼ぶ。そして魔道具の中でも物凄く高いぞ」



この爺さん物凄く嬉しそうだな。ガストン爺さんは昔から魔道具の話になると嬉しそうに話し出す。しかもどんどん違う魔道具の話にそれていって、物凄く長い話になる。



まあ僕は理解出来るから聞いてて楽しいんだけど。


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