第1話

「もう朝か」



外を見れば日が昇ったばかりだ。農家の朝は早い。寝るのも早いので辛くはないけど。



僕は眠い目を擦りながらリビングに向かう。



「おはよう。父さん、母さん」



「おはようダクター。今日も朝の水汲みお願いね」



そう言いながら、母さんは忙しそうに朝ご飯の支度をしている。



「うん。行ってくるよ」



そう。僕の名前はダクター。自分の名前を聞く度に前世のコンダクターを連想して笑いそうになる。



そう、コンダクター。コンダクターと言えば、あれだよ、あれ。



まぁそう言う何時もの妄想は置いておいて、僕は前世の記憶を持っているみたいだ。



小さい頃はこの記憶のせいで、何が本当の事か、世の中の常識が合っているのか、とても混乱した。



ただこの記憶は頭の中にあるって感じではなく、魂に刻まれた記憶って感覚がする。



だから普通に記憶しているのと違い、思い出すって感覚が近い。その思い出すのにもきっかけが必要だったりするし。



今ではこの記憶に振り回されないようになったが、前は大変だった。



小さな子供が、誰も知らない話をしだしたり、謎の理論を披露したり、きっと最初は頭のおかしい子供だと思われていただろう。



今でも多少影響はあるが、ちょっと変わった子供ってぐらいだと思う。



たぶん。。。。。。



土を踏み固めただけの道を歩いて行く。並んでいる家はどれも木造建築でそこそこ大きい。



家と家の間は広く、とても解放感のある村だ。



水汲み場に着くと直ぐに後ろから声を掛けられた。



「おはようダクター。今日も手伝い終わったら森に行こうぜ」



「おはようグリン。今日は父さんの畑の手伝いがあるからまた今度な」



こいつは僕と同じ年のグリン。身長が高くて筋肉だるまのグリンだ。ペレグリンって言葉が思い浮かぶが、全然イメージと合わない。



グリン→ペレグリン→ファルコンペレグリン→隼



筋肉だるまが隼?ナイナイ。



「ちぇー。またあの基地に一緒に行きたかったんだけどな。まぁ親の手伝いなら仕方ないか。何か他に持ってく物とかあったか?」



「グリン、ここは人が多いんだから、あそこの話は止めとけって」



「あっ、いけねぇ。悪い悪い。ついうっかりしてた」



そう言いながら頭を掻くグリン。少し気まずそうだ。まあ僕もそこまで気にしてる訳ではない。隠してるのは念のためだ。すると後ろから声をかけられた。



「ねぇ、何の話を止めとけって?」



「げぇ?何でエリンがここに居るんだよ?」



「何でって、お兄ちゃんを探しに来たからに決まってるでしょ。今日は水汲み終わったらガストン爺さんの所に行けってさ」



「マジかよ。もう字は読めるようになったから良いじゃねえか。しかも俺だけ」



「お兄ちゃん、未だに計算する時指で数えてるんでしょ?買い物の計算位指使わないでやってよ。こっちが恥ずかしいんだから」



「なっ?お前お兄ちゃんが恥ずかしいとか酷くね?なぁダクター?」



「まぁ、筋肉には勉強は難しいって事だろう。体を鍛えてる方が役に立ちそうだしな」



「おうよ。筋肉は絶対に裏切らないぜ。っておい、それ誉めてんの?貶してんの?」



「誉めてるよ。素手でモンスター倒す子供が、他に居るとは思えないしな」



グリンが目の前でモンスターを殴り殺した時はホントにびびったね。いや、マジかこいつ、本当に人間かよって。



「ねぇ、それよりさっきの話は?何を隠してるの?私にも教えなさいよ」



「あ、僕畑の手伝いあるから先行くね」



「あー、俺もガストン爺さんに怒られるから早く戻らないと」



「ちょっと待ちなさーーい」









水汲み場は井戸に手押しポンプが設置されていて、いつも沢山の村人が集まっている。秘密の話しをするなら畑だな。



そう言えば、王都周辺には魔道鉄道が走っているらしい。見たことはないけど。魔道具の開発をすれば、その内見る機会もあるだろう。




急いで家に戻り水を補給して父さんの所へ向かった。



「父さん、水汲み終わったよ」



「おう。ご苦労さん。よし、じゃあ畑に向かうか」



「うん」



この村の畑は広い。見渡す限りの畑が広がっている。少し離れた所には何故か荒野が広がっている。



不思議だ。



畑へ向かいながら、疑問に思っていた事を聞いてみる事にした。



「父さん、今日はどうして朝から畑の手伝いを頼んだの?いつもだったら昼後からお願いするのに」



「ああ。今日はダクターに見せたい物があるからな。まあ楽しみにしとけって」



そう言いながら、父さんの顔は自慢気だった。



そしてたどり着いた場所は畑の側にある鍵の掛かった農具小屋だった。この中に見せたい物があるのだろうか。



「前に話した事があるだろ。俺のオヤジの話。お前のお爺ちゃんのことだ」



「そう言えば話してたね。ここの畑を開墾して、父さんに畑を譲ったら、放浪の旅に出たって」



「おう。やけに短く纏めたな。まあそのお爺ちゃんがだな、旅先で出会った商人から格安で中古の耕運機って魔道具を譲ってもらったって話でな、家の畑広いだろ?だからこの魔道具を使って楽に畑を耕せるようにって、わざわざ送ってくれたんだよ。どうだ、凄いだろ?」



そう言いながら、農具小屋に置かれた耕運機を自慢気に見せてきた。



まぁ魔道具は高いからな。自慢したい気持ちは分かるけど。



「つまりそれって、お爺ちゃんが凄いって話だね」



「おいおい息子よ。魔道具ってのは持ってるだけで凄いんだぞ?だから耕運機を持ってる俺も凄いって話だよ」



「ソウデスネー。トウサンスゴイ」



「全く。まあこの耕運機があるから暫くは畑の手伝いはしなくても良いぞ。ただまぁあれだ。魔道具なんて俺が管理出来ないだろ?だからお前からガストン爺さんに頼んでくれないか?」



「あぁ。なるほどね。なるほど。なるほど。つまり父さんはガストン爺さんのとてつもなくながーい話を聞きたくないから息子に行かせると?」



「いやいや。ほら、父さんは畑の仕事があるだろ?だからガストン爺さんの話を聞いてあげる事が出来ないんだよ。なぁ。分かるだろ?な?」



「分かったよ。まぁあの爺さんは1質問したら100の答えが帰ってくるからね。今からガストン爺さんにお願いしてくるよ」



「頼んだぞ。あ、ここの鍵は父さんか母さんが持ってるから、ガストン爺さんが来た時は鍵を取りに来いよ」



「分かったよ。とりあえず行ってくるよ」



そして僕はガストン爺さんの家に向かった。


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