第9話 魔法の行使は単純に

「アル!ただいまー!」


ビクッ


急に大きい声で名前を呼ばれて夢から覚めるアルに冷たい手を頬に当てて暖を取ろうとするジャック。


びっくりしたぁ。目をぱちくりしていると嬉しそうな顔のジャックとその後ろから迫る大きいい影が見えた。

って、ジャック。あぁ、ジャック。

ーー後ろだよ。


「寝てるアルに何してんだ」


ゴンッ


「ぐあぁ」


「全く、早く拭いてこい!なんで泥まみれなんだよ」


相変わらず頭を両手で抑えるジャック。


「アル驚かせたな」


ぽんぽんっ


目を大きく開いていると頭を軽く撫でられる。

ニコっと微笑むアルに父親はご機嫌になった。


夕飯の食材が配われて食事を始めるが流石に毎日麦とりんごでは飽きてくる。


「ーー肉が食べたい」


ジャックはキッチリ食べ終わりぽつりと言う。


「そうだな、春になったら森に行ってみようか」


父親もジャックに釣られて口の中が想像の肉料理で満たされる。


「大きい肉をいっぱい食べるんだ」


「シチューがいいかな、ボクは」


シュバルツもつられて願望をポツリ。

干し肉がない食卓はなかなか味気がないのか口々に声が上がる。


「またそんなこと言って、食べれるだけありがたいのにね」


「しかたないさ、育ち盛りだからねぇ」


エルデはスープをすすってりんごを一口。

明かりはロウソクのみでぼんやり食卓が映る。


なんかいつも思うけどホラーっぽいな。

アルは目の前の食事風景をそう感じていた。

前世と違う文化、ゆらめくロウソクの明かりが若干怖かった。


蛍光灯とか照明なんて無いんだろうな。


もっとよく見たいのになぁと考えていると天井あたりが少しずつ明るくなっていく。


ポワァッ


「なんだ?!」


父親があたりを見渡す。


「え?!」


「みんな外へ!!」


父親の指示で外へ向かう家族。

アルは母親が真っ先に駆け寄って抱き上げられた。


抱き上げられたアルは突然のことでビクッとして明かりが消える。


「え?え?」


「…暗くなったわね」


「そうだな…」


父親は家の中をキョロキョロ。母親は子どもたちと一緒に一応外へ出る。

エルデはイスに座ったまま硬直している。


「まさか…?」


エルデは振り返って外へ出ていったアルを見る。

両親ともに同じくアルを見つめた。


「明るくなったのにね」


シュバルツは残念そうだった。


「ピカァ―ってなった!すげぇな!兄ちゃん」


ジャックは好奇心で目がキラキラしている。


「大丈夫そうだ」


外へ行った家族を父親は家へ招く。

竈門の火だけがゆらゆらと揺れて家に異常は見当たらない。


ん?めっちゃ俺見られてるな。

笑っとこ。


「キャッキャ」


なんかよくわからないけどコレが魔法?を初めて使った瞬間だった。

夕飯を済ませて一休み。


家族が手ぬぐいを沸かしたお湯につけて体を拭いている。

洗濯物がどんどん増えて父親の臭いはいつもチャンピオンだ。


石鹸とかボディーソープとかむしろ洗剤はあるのか教えてほしい。

天日干しだけじゃ臭い取れないでしょうに…。


まだ寒いからそこまでじゃないけど夏になったらと思うと


「ゥ!」


ゾワッとした。

洗濯は中性洗剤でお願いします!!

心の声は大きくなっていく。


両親はいつも通りの会話だがエルデだけがアルに対して何かの確信を感じていた。

もう朝から遊んでいた兄弟はぐっすり夢の中、丸くなって眠るシュバルツ・大の字で大きく口で呼吸するジャック。

両親も寝ようとして子どもたちにおやすみのキスをする。


エルデは一人竈門の火を見ながら家が明るくなった現象を思い出していた。


うち身内に魔力持ちがねぇ」


「母さんもそう思いましたか」


母親は隣に座りエルデを見た。


「もうその線の話かよ」


父親は寝巻きに着替えて水を飲む。

柔軟をしてから寝るのが父親のルーティーン、机は端に寄せられて開脚をしていた。


「そりゃね」


「あれは魔法よね?突然光ったもの…」


「明日村長へ相談してみるか?」


「そうだね、この村からは初めてじゃないかい?」


「確か街で魔力持ちの子供は集められるのよね」


「教育機関に入れられるそうだがなんとも知らないね」


ただまぁと両親に向かい


「将来、立派な魔法士になれば生活も安泰だろう?」


竈門の薪がパチっと音を立てる。


「いやいやまだ赤ん坊だぜ?何かの偶然かも知れないし、それに家が明るくなりましたってなんの報告だよ」


そりゃそうだ

俺も一緒に頷く。

夜更けにパチッと目が覚めて大人たちがそんな会話をしていた。


「じゃあアルに聞いてみようかね」


ゆっくり俺に近づいてくるエルデ婆さん。


「アルや、さっきみたいに明るくできるかい?」


ほい

さっきのイメージはもう出来ていた。

俺はなんの疑いもなく家を照明器具のスイッチを入れるように明かりをつける。


ポワァと家全体が明るくなる。

もはや100w相当です。本当にありがとうございました。


両親は目を見開いている。

エルデ婆さんは機嫌が良くなる。


「ありがとぅよ、もういいよ」


フッと明かりをスイッチOFFにする。

ホタルッ◯機能はない、まず照明器具がないからね。


竈門の火だけの灯りに戻ると話を続ける。


「この子は魔法が使えるのとあと一つ」


「あと一つ、何ですか?」


「…言葉がもう分かるみたいだよ、まだ赤ちゃんなのにね」


あぁなるほど!

言葉分からないもんね!赤ちゃんだもん!


……やらかしたか?!

寝たフリしようかな?


まだ助かる、まだ助かる……マダガスカ◯!

そーれ…zzZZ


こうして狸寝入りはガチ寝に変わる。

アルが本当に眠ってしまった後、両親とエルダが村長へ相談すると言うことが決定事項となったのだった。


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