第8話 静かな畑と新たな啓示
「あらあらホントね」
よいしょ。母親はアルを抱っこし直しその弾みでアルがげっぷをする。ヨダレを垂らして畑を見るアルを母親は笑顔で見つめていた。
「誰も信じないだろうけど要はもう遊んできてもいいってことでしょ?」
やったね!と両腕をあげて喜ぶジャック。
父親は作業が終わったからいいかと首を縦に振った。
それと同時に駆け出すジャック。手にはなぜか長い枝を携えている。
「ぁ コラ待てってー」
シュバルツもあとを追うがペコリとお辞儀「行ってきます」と行儀がいい。
「じゃあ俺も水汲みしてりんごでも取ってくるよ」
父親はもう一仕事と言わんばかりにカゴを手に取り出かけようとした。
「この寒いのに子供らは元気ねー」
アルを見つめながら笑顔で言う母親は家に戻ろうとせずアルを抱っこから下ろして畑で遊ばせることにした。
「ほらアル、柔らかいねぇ」
畑に足だけついて母親が言う。
そうだねと返したら驚くかなとか一瞬思ったが未だに「あぅあぅ」ぐらいしか喋れない。
なので精一杯笑顔で家族には接するようにしている。
赤ちゃんスマイルで家族平和に貢献だ。
「まぁ!また笑ってくれたわ!」
母は喜び庭駆け回り父は頭を撫で回す
まだ髪の毛少ないからしゃりしゃり撫でられてマス。
前世でおじさんやってたから気持ち的には若者に頭撫でられてるんだけどどうみても今は巨人だからね。
大丈夫、特に気にならない。
もう、もう充分だからりんご取ってきてー!
「んじゃな」
ぽんぽん。
ぁ行ったわ。
いってらっしゃい、帰り遅れるなら連絡するんですよ〜!
しばらく畑の土で遊んでいたがまた睡魔が迫ってくる。
畑でポフっと横になってしまい母親に抱っこされて家に帰った。
「畑でいっぱい遊んだもんね、また来ましょうね」
母親のこういうとこ好きだなぁ…zzZZ
母親の腕の中で睡魔に負けたアルを鼻歌まじりに抱っこして家に入ろうとする母親。
風が吹いて肩から落ちてしまう手ぬぐい。
もこ。
土が動く、先ほど前遊んでいたが畑の土が形状記憶のように元の畝へ戻るのだった。
「あら?」
落ちた手ぬぐいを取ろうとした母親が元に戻った畝を見て一言。
「ありがとう」
小さな声で言った言葉は周りの耳には届かなかった。
その後、畑の様子を見に来て驚いた村長が我が家に来たのは言うまでもない。
「こんにちは、ルシーはいるかい?」
「村長!こんにちは」
「ルシー、畑が元に戻ってて驚いたぞい」
「実は……」
「ルー坊、畑作業はもう終わったんだね?」
「いや、実は……」
「ぉぃぉぃ、畑もう終わったのか?」
「いや、だからそれは……」
村長が来たことであちこちから畑を見た村人が集まってくる。
皆に説明したが驚きよりは心配が強かったようで「そんなことがあるか?」と首を捻っていた。
今年の苗植えが楽しみだと父親が笑うがそれもそのはず、これから畑準備の者もいるのだ。
私らの畑もそうなれば楽なんだがなぁと愚痴をこぼす。
何度も同じ説明に困惑する父親を見かねた母親が一言。
「皆の畑もそうなってるかもよ」
ガタッ
「ぉ、ちょっと見に行くか」
「あぁ私もそろそろ」
百聞は一見に如かず。村人たちはそれぞれの畑に見に行くことにした。
「ありがとう、アイザ。助かった」
「いいのよ」
皆にお茶を出そうとしていたコップをしまう母親。
「それにしても…」
「ん?」
「アルが産まれてからまだ経ってないけど良いことが増えた気がする」
「えぇ、そうね」
「神の子か…」
「でも違ったんでしょ?今日も母さんは通ってるけど」
「シュバルツもジャックもな」
「けど、みんないい子よ」
「あぁ、そうだな」
ヨイショと父親が椅子から立ち上がり
「さて、と。行ってくる」
桶を抱えて水を汲みに近くの井戸へ向かう父親。一人アルの世話を焼く母親。
頭をそっと撫でて口癖のようにつぶやく。
「また笑顔をみせてね、アル」
□□□□□
「…とまぁ、こんな感じで生活したいんだ。せっかくの異世界ならあちこち見に行きたい。前世は旅行という考えがないくらい仕事だけだった。無趣味は良くない。魔法もあるみたいだし生活基盤が固まったら旅をしてみたいし、触れてみたい。」
「はいはい、もちろん」
「一応願望だけど、でも今のこの体だと何も出来なくて困ってるんだ。暇なんだよね」
「ボクが干渉したから寺川君は…今はアル君か。もうアル君は魔法を使えるよ」
「ぇ!ほんと??」
前のめりで目を合わせる
「ホントだよ。もう分かってると思ってたけどどう?起きたら渡した指輪の部分を意識してみて」
「意識ね。やってみるけど使い方はどうやるん───」
「ぁ、じゃあまたね」
光が強くなって会話が途切れる。
いや、そこ大事よ?!ちょ、まっ!!
<──大丈夫、思ったとおりになるよ──>
はっきりと聞こえた言葉はワクワクでしかないよな
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