第9章 3話
◇
展示会は隣県で行われた。開催期間は四月末まで。その展示会が終了し一ヶ月後、ふたたび都内にて、全国の金賞から銅賞までの作品が展示されることになる。
だが、都内展示まで待っている余裕はない。
俺は初日に隼と、なぜか女子三人と共に隣県の展示会場へと向かっていた。
「……なんで、君たちがいるのかな」
榊原さん、岩倉さん、綾野さん。鈴と親しくしていた三人だ。たしかに行きたい気持ちはわかるが、わざわざ一緒に行く必要はなかったのではないかと思う。
「いいじゃない。どうせなら一緒に行った方が楽しいわよ」
「そうですよ、春永先輩。あたしたちだって親友が金賞取ったかもしれないのに、呑気に春休みなんか送ってられませんて」
「お、お邪魔になってたらすみません……」
強かだなと隣で笑う隼は、毎年のことだけあって、なんの緊張感もない。
俺も毎年行っているはずなのに、今年は無性に心がざわついて仕方がなかった。昨晩もよく眠れなかったせいで、思考がやたらと散在して落ち着かない。
「……はあ」
窓枠に肩肘をついて、俺は気休めに肺からため息を逃がした。
──鈴はもう、この世界にいない。
その事実は変わらない。変わらないのに、こうして日々は変わらず過ぎていく。
心にぽっかりと空いた大きな穴は──おそらく生涯拭いきれない深い裂傷は、それでもなお俺に生きろと訴えかけて逃がしてはくれないのだ。
わかっている。
どんなにつらくても、どんなに寂しくても、生きていかなければならない。
俺はそう鈴と約束したから。鈴が安心して眠れるように、ちゃんと約束は守らなければ。そうでなければ、俺が下した決断がすべて否定されてしまう。
でも、やっぱり、会いたい。
鈴に、会いたい。
俺はもうずっと、彼女に会いたくて、たまらない。
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