僕と七夕姫のはじまり 3

「ね。私のうわさ、ほんとだったでしょ。」

 七海先輩は、僕を無表情に見下ろしながら言う。

 僕は唖然としてしまい、声が出ない。

「……驚いてるみたいね。怖くなっちゃった?」

 七海先輩は、からかうように言う。意地悪そうな笑顔だったが、そこで、僕は初めて彼女の笑顔を見た。

「驚きは……しました。でも、怖くなってはいません。むしろ、こんなアニメみたいなことあるんだって興奮しました。」

 立ち上がりながら僕は言う。

「そう。変わってるのね。やっぱり、冷やかしなのかしら。まぁ、私にとってはどっちでもいいけど。」

 スーッと彼女の顔から笑みが消えて、また無表情に戻った。

「真剣ですよ。僕は、本気で七海先輩と付き合いたいと思ってます。」

「じゃあ、そういうことにしとくわ。それより、そろそろ注意して。」

「え……。またですか?」

「そうよ。早くして。」


「……わかり……。うわあああ。」


 突如、僕をめがけて前から、野球ボール、バレーボール、サッカーボール、鉢植え、テニスラケット、ストップウォッチ、傘が襲い掛かってきた。

「ヤバイ!」

 途端、僕はもう一度地面にしゃがみ込む。

「七海先輩!大丈夫ですか!?」

 僕は告白の時よりも明らかに大きな声で、叫ぶように言う。

「あら、心配してくれるの?ありがとう。大丈夫よ。それに、慣れてるから。」

 彼女は表情を崩さずに言う。まるで、何か起こることを予想してたかのようだ。いや、本当に予知していたんだ。彼女は僕に警告してくれていたのだから。


「先輩、これが起こること、知っていたんですか?」

「ええ。知ってたわよ。これが『七夕姫』の運ぶ不幸だもの。」

「え……。」

「私に告白してから、君には不運なことが起こり続けるわ。7秒後、70秒後、7分後、70分後、っていう感じでね。」

「そんなことが……」

「あるわよ。だって、これまで、みんな同じタイミングで不運が起きるんだもの。どう、怖くなった?」

「いいえ、むしろ、燃えて来ました。」

「どういうこと?」

「好きな人と付き合うために、いくつもの障害を乗り越えていく。そんなの、男として最高に燃えるシチュエーションじゃないですか?」

「ホント、変ってるのね。まぁいいわ。私と本当に付き合いたいなら、来週末にもう1回ここで告白して。そしたら、真剣に考えてあげるわ。」

「分かりました!必ず来週末にもう1回告白しますから!」

「……フフフ。楽しみにしているわ。」



 こうして、僕と七夕姫の不運な7日間が始まった。

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僕と七夕姫の不運な七日間 朝霞まひろ @asakamahiro

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