僕と七夕姫のはじまり 2

 「不運をもたらす七夕姫」の噂。

 誰が言い始めたのかは分からないが、この学校で知らない人はいない。人の噂も七十五日とは言うが、彼女の場合は違う。なぜなら、その噂はあまりに荒唐無稽な一方で「被害者」が数多くいるからだ。

 綾織七海。西城高校2年生。モデルなのではと疑うほどにスラっと伸びた手足に、日本人とは思えない白い肌、ツヤのある長い黒髪、人形のように整った容姿。そして、成績優秀でスポーツ万能、先生から生徒会長に推薦されたという噂まである。そんな完璧な少女に、心奪われた高校生は数多くいる。だが、その純情はただの1つも実ることなく撃沈した。それは、七海先輩が告白を撃墜しているわけではない。彼女は告白を、受け入れることも拒絶することもしないのだ。

 では、どうして誰とも結ばれることが無いのか。

 

「綾織七海に告白すると不幸が訪れる」


 この噂がその答えだ。

 野球部の先輩は、告白した3日後に骨折し、最後の大会を棒に振ったそうだ。

 生徒会の先輩は、不正会計がみつかり、大学の推薦を取り消された。

 幼馴染だった先輩は、急遽、親の都合で海外留学が決まった。

 他にも、1日に3回、小指をタンスにぶつけただとか、下校中に頭上から黒板消しが落ちてきて直撃したとかがあった。

 これだけなら、まだ噂に過ぎなかっただろう。

 極めつけは、この噂を怖いもの見たさで検証した不良5人組だ。

 彼らが七海先輩に告白した3日後、この地域は記録的な豪雨に襲われ、不良3人の家はその被害にあった。亡くなった方はいなかったが、家が半壊だったり、部屋が浸水だったりといった被害だ。

 愚かな不良5人組の騒動から、噂が一気に広がった。そして、恋愛という幸せが一瞬で終わること、「七海」の七という字から連想され、綾織七海は「七夕姫」と言われるようになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る