僕と七夕姫の不運な七日間

朝霞まひろ

僕と七夕姫のはじまり 1


 「学校の七不思議」を知っているだろうか。

 今では、少し古臭く聞こえるかもしれない。

 けれども、誰しも、アニメやらゲームやら漫画やテレビなどで聞いたことはあるだろう。


 「動く人体標本」

 「トイレの花子さん」

 「音楽室のベートーベンの肖像画」

 「開かずの間」

 「歩く二宮金次郎像」

 「ひとりでに鳴る楽器」

 「一段多い階段」


 地域差はあれど、大体こんなところだろう。

 では、こんな七不思議は聞いたことがあるだろうか。


 「不運をもたらす七夕姫」


 これは、僕の通う学校の七不思議の1つだ。

 他の地域ではあまり聞かないだろう。

 だって、この「七夕姫」は実在し、そして生きている人間のことを指しているのだから。

 これは、僕とこの「七夕姫」とのお話。

 

 


 午後4時。

 ワイシャツだけでは、まだ肌寒いが、気持ちいい陽気の午後。

 屋上の風は強すぎず弱すぎずで心地よい。

 うたた寝したくなる日和だが、僕の心中は暴風雨だった。

 その原因は、僕の目の前にいる美少女だ。

 僕は彼女を呼び出し、これから一世一代の大勝負をする。


「はなしって何?」

 美少女が口を開く。

「……そのぉ……。」

 上手く口が回らない。そもそも声出てるのだろうか。

「ちょっと、タンマ。君、1年生?私のうわさ知ってる?」

 彼女、綾織七海のうわさ。

「僕、1年3組の八木隆彦って言います。……その『七夕姫』のうわさは、知ってます。」

「……そう。なら、冷やかし?それとも、怖いもの見たさってやつ?」

「いいえ!それは、違います!僕は本心から七海先輩が好きで!」

 勢いで、告白してしまった。顔が真っ赤になるのが分かる。それに、七海先輩の顔が見られない。

「ふーん。まぁいいや。とりあえず……」

「……あの!」

「よけて。」

 僕が前を向き直して話そうとしたとき、七海先輩は大きな声で言った。瞬発的に、先輩の警告に従い、体を後ろにそらす。

 途端、僕の顔の目の前を野球ボールが通り過ぎた。

「ね。私のうわさ、ほんとだったでしょ。」

 彼女は無表情に僕を見下ろすように言った。

 僕はここで気が付いた。僕の大勝負が今日からずっと続くことに。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る