令和7年7月7日7時77分

kayako

7:77



 4はこの国では不吉な数字と言われている――

 それは勿論、4が「死」を連想させるからだ。


 しかし私は何故か4に縁がある。

 まず名前からして『志田四葉よつは』だし。

 いつも仕事で疲れ切り、外食して帰ってきてすぐに寝てしまい、浅い眠りから覚めるのはたいてい午前4時44分。

 そして電車に乗る時も、比較的空いてそうな車両に乗り込むとそこは大抵4号車。人だかりの改札口で少しでも早く通過出来そうな改札機を探すと、大抵「4」がついている。

 会社でこき使われまくり、上司にパワハラされまくり、「早く仕事終わらないかな……」などと思って時計を見たらだいたい午後4時44分。

 たまの休みさえ寝てばかりで過ごしてしまい、時計を見たら午後4時44分。



 そして令和4年の4月4日。

 私はその日もやっぱり、朝早くに目を覚まして4時44分を目にしてしまった。

 夕方にミスをして上司に怒られながらふと時計を見たら、やっぱり16時44分だった。

 何でこんなに4に縁があるんだ私は。2044年にも令和44年にも、多分同じことが起こるんだろう――

 そう絶望した私は、その日もまた疲れ切って帰宅し、玄関先でぶっ倒れたまま寝てしまった。




 そして翌朝。

 冷え切った重い身体を起こしながら、枕元の時計を見る。

 どうせまた4時44分だろう。そう思ったが――



 時計のデジタル表示が示していた数字は何と、7:77。



 思わず目を疑った。

 当たり前だ。7時77分? ありえない。

 慌てて周囲を見渡すと、どうも様子がおかしい。いつもの私の部屋じゃなく、何故か病室らしき場所にいる。

 お母さんが泣きじゃくりながら、私を覗き込んでいた。



「あぁ、あぁ、四葉! 目が覚めたのね、本当に良かった!!

 貴方過労で倒れて、3年も眠ってたのよ!?」



 意味が分からない。過労で倒れた? 3年も寝ていた?

 脇にあったカレンダーを見てみると、確かに令和7年とある。しかも7月7日。

 令和7年7月7日。それだけならまだしも――

 7時……77分? 

 ありえないラッキーナンバーもいいところじゃないか。4にやたら縁があると思っていたら、今度は7というわけか。


 しかしお母さんは涙を流しながら説明してくれた。


「あぁ、そうね。そりゃ混乱するわよね……

 貴方が倒れた時って、まだ1時間が60分だった頃だもの」


 そりゃそうだ。1時間が60分なのは人が呼吸をするくらい当然のことじゃないか。

 でもお母さんはさらにこう続けた。にわかには信じられない事実を。


「四葉が倒れた頃って、この国だけじゃなく、世界的に人類に余裕がなかったでしょう?

 伝染病が世界中に流行って大きな戦争が起こり、どの国も追いつめられていた。

 貴方が眠っている間、核戦争の一歩手前まで行ったことさえあったのよ。

 だから、強制的にでも人類に余裕を取り戻そうということになって――

 1時間を60分でなく、100分に。1分を60秒ではなく100秒にしようと決まったの」


 む、無茶苦茶だ。

 いくら人類が追いつめられたからって、時間を操作しようだなんて。

 そんな私の当惑をよそに、お母さんは自分の腕時計を見せてくれた。

 見慣れた時計の文字盤――のはずだが、何かがおかしい。

 1から12の数字が円状に並んで……いない。最後の数字が12ではなく20になっている。

 お母さんは泣きながら言ってくれた。


「良かったねぇ、四葉。

 貴方は昔からのんびりした子で、学校に遅刻したり宿題を期日通りに出せなかったりとかしょっちゅうだったけど……

 これできっと、今までより余裕をもって過ごせるはずよ。仕事に追われて倒れることもないはず!」


 そう。考えてみれば、1時間が100分になるということは、出勤時間も仕事の締切もそれだけ伸びるということだ。

 今まで1時間で終わらせなければいけなかった仕事に、40分も余裕が出来る。

 しかも1分も今までの1分と違い100秒。40秒の余裕がある。つまり……

 今までの1時間が60×60=3600秒なら、これからの1時間は100×100=1万秒。3倍近くも余裕があるじゃないか!!



 *******


 しかしその4か月後――

 私は再び、過労で倒れる寸前だった。

 当たり前である。仕事の締切は確かに伸びたが、働かされる時間もそれだけ伸びたのだ。

 それ以前は午後8時すぎまで当然の如く働かされていた私は、同じように8時近くまで働かされていたのである。

 以前と全く変わらず上司に怒鳴られながら、そういえば上司にパワハラされる時間も前より伸びたなと思いつつ時計を見ると、午後7時77分。

 あぁ。7の並びをこれほど恨めしく思う時が来るなんて――



 そう思った瞬間、私は気を失った。

 倒れる刹那、窓の外に閃光が見えた気がした。あれはもしや、核の――?



 Fin

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令和7年7月7日7時77分 kayako @kayako001

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