新しい生活のはじまり
朝を迎え、俺はいつも通りに学校へ向かうはず――だった。
だが、なにかおかしい。
目を開けても周囲は“暗闇”で、朝とは思えない光景だった。……おかしい、音だけは朝のような環境音が響いているのだが。
一体全体、何が起きているのだ?
手足も縛られたように動かないし……って、まて。
「俺、縛られてるぅううううううううう!?」
「抵抗するな、純。お前は今、車の後部座席だ」
「な、なにをしやがる! くそ親父! いつの間に俺を拉致しやがった!」
「落ち着け、純」
「これが落ち着いていられるか! 手足を縛ったうえに目隠しまで……!」
体をグネグネ動かすが、それだけしかできない。なにかでキツく縛られている。おのれ、親父……あとで百発殴る!
しばらくすると車はどこかで止まった。
いったい、どこへ連れて来られたんだ俺は。
「よし、目的地に着いた。純、お前を今から下ろす。心せよ」
「なにが心せよだ。ふざけんな!」
「そう興奮するな。お前にサプライズだ」
「あぁん?」
親父は車から降り、後部座席の方へ来た。俺の縄と目隠しを解いてくれた。瞬間で、俺は親父をブン殴ろうとしたが――手を止めた。
……なんだこの場所は。
「どうだ、驚いたか純」
「ここって駅前の高層マンションじゃないか」
「そうだ。それとお前の許嫁……咲良ちゃんだ」
高級車から降りてくる咲良。今日はワンピースを着てとても可愛かった。……め、女神かな!?
「おはよう、有馬くん。――じゃなくて、純くん」
「…………」
俺は見惚れて挨拶を忘れていた。
「ぼうっとしてどうしたの?」
「……ご、ごめん。咲良、私服姿で可愛いな。でも、学校は?」
「なに言ってるの、純くん。今日は土曜日だけど」
「――へ。あっ!! 俺としたことが、平日と勘違いしてた」
そうか、今日は休日だったか。
親父は俺を逃がすまいとこんな風に拉致ったわけか。つまり、昨晩の話の続きというわけだな。ようやく合点がいった。
「というわけだ、純よ。お前と咲良ちゃんはこの高層マンションの最上階で同棲生活を送るのだ」
「なぬっ!? 最上階だとぉー!? まてまて、家賃とかやべぇだろ」
「心配するな。有馬家と関家の力を合わせれば、これくらいの負担は楽勝よ。お前たちの未来の為だからな」
「マジかよ!」
いいのかよ、こんな芸能人が済むようなマンションに住んでも。俺たち、まだ高校生なんだがな。だが、親父たちからのせっかくのプレゼントだ。無碍にすることもないか。
それに、咲良と二人きりになれるのなら……うん、ありだな。
「純くん、これから一緒に……ど、同棲してくれる?」
「咲良……ああ、君が良ければ」
「うん、嬉しい」
咲良は、頬を赤く染めて嬉しそうに微笑む。それがあんまりに神々しくて、俺は爆発四散しそうになった。絶対に幸せにしてやる!
「よ、よし。さっそく部屋へ行ってみるか」
「賛成。わたしもまだ中までは入ってないから、とても楽しみなんだ」
となれば、ここから先は俺と咲良の二人だけの時間だ。
「親父。帰れ」
「ヤダヤダ!!」
「ガキみたいに駄々こねるな!」
「父さんもマンションを見てみたいぞ!!」
「なんでだよ。邪魔すんじゃねえ」
「ちぇ。まあ、今日は記念すべき日だからな。父さんは帰る」
なんだ、潔いな。まあいいか、これ以上邪魔されても面倒しかない。俺は親父を車に押し込め、帰らせた。
「じゃあな、親父! ありがとよ!」
車が走り去ったところを確認し、俺は咲良の方へ。
「さあ行こうか」
「せっかくだから、手を繋いでくれる?」
「……お、おう」
最近の咲良は、こういう恋人的要求をするようになった。けど、それが嬉しい。俺ももっと咲良と触れ合いたい。
高鳴る心臓の中、俺は咲良の手に触れた。
そして、高層マンションの中へ。
……何十ものセキュリティを突破して最上階へ向かう。って、厳重すぎだろッ! いくつ扉を突破せにゃならんのだ。
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