同棲するかもしれない

 晩飯と風呂を済ませてリビングでくつろいでいると、何かがニョキっと現れた。


「うわッ! なんだ、親父か! 脅かすな!」

「純、ひとつ確認を忘れていた」

「突然なんだよ」


 親父は改めて咳払いすると、真剣な顔で話し始めた。


「お前は本当に咲良ちゃんが好きなんだな?」

「そ、そりゃ当然だ」

「どれくらいだ」


 ど、どれくらいって……!

 答えなきゃいけないのかよ。けど、俺が本気だってことを知ってもらう必要はあるな。

「全部だ」


 親父が「……ほ、ほう」と意外そうに驚くと、ソファの陰から「マジでー!!」と驚いて出てくる姉ちゃん。って、いつのまにいたんだよ!



「純、やっぱり咲良ちゃんラブなんだ!」

「なんだよ、姉ちゃん。盗み聞きかよ」

「失礼ね。私はずっとソファの下で寝転んでいたわよ。スマホでゲームしてたの」


 そうだったのか、気づかなかったぞ。


「というわけだ、親父。俺は明日に備えて寝る」

「待て、純」

「なんだ、まだ何かあるのか?」


「うむ。お前の気持ちはよ~~~く分かった。迷惑も掛けてしまった」


 大袈裟な演技(?)で心苦しそうにする親父。いったい何が言いたいのやら。


「なんだよ、今更。俺は別に迷惑だなんて思ってないよ。咲良と一緒になれて、むしろ嬉しいんだ」


「だからこそ応援してやろうと言うのだ」

「だから、いったいなんだよ」


「お前、咲良ちゃんと同棲しろ」

「――え?」


「なんだ、聞こえなかったのか? 咲良ちゃんと同棲しろと言っているのだ」


「へ……? は……? はあああああああああああああ!?」



 驚きのあまり、俺は大声を上げてしまった。姉ちゃんも横で叫んでいた。



「ちょ、お父さん! 純と咲良ちゃんが同棲って……そんな無茶苦茶な」

「無茶苦茶ではない。これは運命なのだ」

「運命って……。お父さんと向こうの親が勝手に決めた許嫁でしょう。それに、二人は高校生よ。無理でしょ」


「お父さんに不可能はなあああああい! それに、関家も了承済みだ」



 いつの間に話が進んでいたんだよっ!

 ……てか、俺と咲良が同棲だって……考えもしなかった。普通に高校生活を送り、普通に青春を送るビジョンしか思い浮かばなかったけどな。


 戸惑っていると親父は俺の肩に手を置いた。



「親父……」

「いいか、純。お前が望むなら、父さんは応援するし、支援もする」

「なんでそこまで……」


「馬鹿もん。お前の幸せを願って何が悪い」



 そうか、親父は純粋に俺を応援いてくれているんだ。なのに。



「親父!! さっきは殴ってすまんかった」



 感激していると、姉ちゃんが呆れていた。



「純、お父さんが前に言っていたけど、関家は金持ちよ。だから、咲良ちゃんとくっつけばウチも安泰ってわけ。お父さんは、逆玉を狙っているのね」


「そういうわけかよ、クソ親父!! 感動して損した」


 頭痛がしてきたぞ。

 けどまあ……応援してくれるのは嬉しいけど。


「落ち着け、純。咲良ちゃんと同棲ができるんだ、文句はなかろう!?」

「……そりゃ、そうだけど。そう簡単にいくかね」

「任せろ。三日後には、お前と咲良ちゃんはマンション暮らしだ」


「早ぇな……。分かったよ、期待半分で待ってる」


「良い返事だ。では、お父さんはさっそく行動に映る!」


 疾風の如く去っていく親父。なんなんだか。

 まあいい、本当に同棲生活が叶うのなら、それはそれでありがたい話なのだから。


 俺は部屋に戻り、親父の言っていた同棲のことをメッセージアプリで咲良に伝えた。



 純:親父が同棲生活させる為に動いてくれてる

 咲良:や、やっぱり……

 純:まさか、そっちにも話がいっていたか……?

 咲良:うん、さっきね、お父さんが同棲しろって

 純:既に話が済んでいたか。恐ろしいな

 咲良:詳しくはまた明日、話そう

 純:そうだな、そうしよう



 もう時間も遅い。

 これくらいにして、俺は寝るかな――。

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