関さんの家で二人きり

 関さんを家まで送った。

 すると、ちょうど玄関からお義父さんが現れた。


「おかえり、咲良。それに、有馬くんも。娘を送ってくれたのかね」

「どうもです、お義父さん。許嫁として当然のことですから」

「素晴らしい心掛けだ。上がっていくかい?」


 マジか。誘われては断れない。

 関さんともう少し一緒にいたいし、寄っていくか。


「では、お言葉に甘えて」

「うむ。ゆっくりするといい」


 家に上がらせてもらい、リビングへ。相変わらず広くて快適な空間だ。


「どうぞ、有馬くん。ここに座って」

「ありがとう、関さん」


 ふかふかのソファに座り、俺は一息ついた。関さんは俺の隣に密着するように座った。……近い。かなり近い。

 これ、お義父さんに見られたら殺されないだろうな……? ちょっと心配になるが、公認の許嫁だし、そんなことはないか。


 お義父さんは、どこかへ行ってしまって姿はない。


 今なら二人きりだ。


 緊張の中、関さんが小さな頭を俺の方へ委ねてきた。



「有馬くん、今日はありがとね」

「突然どうしたんだい」

「先輩と勝負して勝ったから。あれ、わたしの為に戦ってくれたでしょ」


「そ、そうだ。俺は関さんを誰にも取られたくなかったんだ……」


 照れながらも俺は、素直に答えた。

 正直、関さんをかけて戦うなんて馬鹿げたことだ。拒否することでもきたはずだ。でも、俺は逃げる真似だけはしたくない。

 そんなカッコ悪いところを関さんに見せたくもなかったからな。


「良かった。わたしのことを思ってやってくれたんだもんね」

「もちろんだよ。勝てる自信もあったから……負けていても、一緒に駆け落ちする覚悟くらいあったさ」

「そこまで本気だったんだ。嬉しい」


 本当に嬉しそうに関さんは、俺の手を握った。俺も応えるようにして関さんの手を握り返す。……そうだ、この雰囲気に乗じて関さんの名前を呼んでみよう。いい加減、苗字で呼び合うのもどうかと思っていた頃だ。


「……そ、その。さ、咲良……」

「……ちょ、いきなりだね。あはは……恥ずかしいや」


 顔を赤くする関さん。

 うわ、めちゃくちゃ可愛い。

 てか、俺も顔がヤケドするくらい熱い。女の子の名前を呼ぶとか、こんなに緊張するのか。


「咲良も……俺の名前を呼んでくれないか」

「うん……。えっと……じゅ、純くん……」


 上目遣いで呼ばれ、俺は頭が真っ白になった。な、なんて衝撃的な可愛さなんだ。それに、嬉しすぎる。今死んでも後悔はないっ。



「咲良……」

「純くん」



 その後も互いを呼び合っていく。

 名前を呼んでいるだけなのに、とても幸せだ。



 そうしていると、時間はあっと言う間に過ぎた。



 もう帰る時間だ。



「そろそろ帰るよ、咲良」

「うん。また明日ね」

「連絡するよ」

「待ってる」


 玄関で別れ、俺は咲良の家を後にした。



 * * *



 ルンルン気分で帰宅。

 ちょうど親父が廊下に出てきやがったので、俺は確保した。


「まて、クソ親父」

「げえ! 純、今戻ったのか……タイミングの悪い」

「母さんから散々お灸を据えられたと思うが、それはいい。そろそろ、許嫁の件を話してもらおうか」


「なんのことだ?」


「とぼけるな。天海さんのことだ」

「ああ、天海か。仕方ない、お前には知る権利があるからな、話してやろう」


 やっと話す気になったか。

 俺は親父を強制的にリビングへ連れていき、座らせた。


「さあ、話せ」

「その昔だ。天海は、金を貸してくれたんだ」

「なんの関係がある?」

「おおありだ。その時、担保しにしたのがお前だ」


「は……? はぁ!?」


「結局、金は返せなくてな。娘さんと許嫁にすることにした……わはは!」

「笑いごとじゃねええええ!!」


「――ぎょふぅ!?」


 親父をブン殴った。

 さすがに我慢の限界だ!

 まったく、なに勝手に金借りて担保に俺を差し出しているんだよ!


「そういうことか。だが、俺はもう関さん……いや、咲良と付き合うって決めた」

「なんと。もう名前で呼ぶ仲になったか」

「まあな。俺は咲良が好きなんだ。彼女は俺に全てをくれた。だから」


「なるほど。そこまでいっていたとは……父は感心したぞ」


 なぜか涙を流し、感動している親父。なんなんだか。


「というわけだ。天海さんには悪いけど」

「天海の娘さんについては、お前で解決しろ」

「んな!」

「当然だ。同じクラスで席も前なのだろう?」

「なんで知ってんだよ! そうだよ。同じクラスで前の席だよ! ……ったく、俺から振るしかないか」


「お前に負担を掛けて申し訳ないが、頼んだ」



 丸投げかよ! まあいい、親父のおかげで俺は咲良と出会えたのだから……感謝はしている。


 ようやく天海さんの件は分かった。あとは解決するだけ。

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